こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

かもめ食堂

otello2006-04-05

かもめ食堂

ポイント ★★★★
DATE 06/4/2
THEATER 109シネマズMM
監督 荻上直子
ナンバー 49
出演 小林聡美/片桐はいり/もたいまさこ/ヤルッコ・ニエミ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


新しいことを始めるには、一歩を踏み出す勇気がいる。その新しい世界が「いらっしゃい」と歓迎してくれたら、どれだけうれしいだろうか。期待と不安の入り混じった気持ちから、不安だけを取り除いてやる。それこそが受け容れる側の人間の役目。しかし、それ以上は甘やかさず自分の頭で考えさせ、体で行動させる。自分の足で歩けるなら、自分のペースでいいからできる限り自分の足で歩きなさい。そんなヒロインのメッセージがさりげなくちりばめられた小さな食堂の心地よい空気は、清冽なのにやわらかくあたたかい。


ヘルシンキの街角でかもめ食堂という日本食店を開いたサチエのもとに、図書館で知り合ったミドリという日本人が転がり込む。やがて少しずつ客が増え始めたところに、新たにマサコというオバサンも店を手伝うようになる。


必死にがんばっているわけでもないが、惰性に流されてはいない。その日のやるべきことをきちんとこなし、ひたすら自分のポリシーを貫く。なによりも肩の力を抜いた生き方をするサチエがすばらしい。人生の価値をカネで計ることにはもちろん距離をおいているが、だからといって人とのつながりや愛を声高に主張するわけでもいない。不確定な未来に対しても「そのときはそのときですから」、離れていこうとする友人に対しても「人はみな変わっていくものですから」と、決して熱くならない。この生き方に対する達観と人間関係の距離感が絶妙で、繰り返し食堂にやってくる客同様、観客もかもめ食堂に心身ともにゆだねてしまう。


大事件がおきて感情を盛り上げるわけでもなく、意外な展開でひきつけるわけでもない。むしろそういった映画的な喜びや驚きとは対極の物語を描くことで、勝ち組負け組の二極化に対する強烈なアンチテーゼを投げかける。価値観を少し変えるだけで、人間らしく生きることができる。時代の空気を読んだ、非常によい雰囲気を持った作品だ。


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