こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

美しき運命の傷痕

otello2006-04-10

美しき運命の傷痕 L'ENFER


ポイント ★★★★
DATE 06/1/26
THEATER メディアボックス
監督 ダニス・タノヴィッチ
ナンバー 14
出演 エマニュエル・ベアール/カリン・ヴィアール/マリー・ジラン/キャロル・ブーケ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


裸の少年と中年男、それを見た少女。本格的ミステリーを予感させる導入部から物語に引き込まれる。果たして映画は3人の女を軸に、家族とは愛とは何かを模索する。計算されつくした構図とセリフ、心の闇をたくみに表現する俳優たちのリアルな演技、あらゆるシーンに仕掛けられた暗喩と伏線、そして感覚を鋭利にを刺激する研ぎ澄まされた音楽。それらが相乗効果を呼び、一瞬たりとも気を緩めることができない緊張した作品に仕上がっている。


パリに住む3姉妹、長女ソフィは夫の浮気に気づき、離婚を決意する。次女セリーヌは療養施設にいる母親の看病に通いながらも、謎の男からのアプローチに心が揺れる。三女アンヌは親子ほども年齢の離れた大学教授との不倫に破れ情緒不安定になる。父の死のきっかけとなった出来事に新たな事実が判明したとき、疎遠になってしまった3姉妹が再び結びつく。


ソフィとアンヌの人生には父親の事件が色濃く影を落としている。父親という一番身近な男から愛されたという記憶がないせいか、夫や恋人に愛の見返りを求め過ぎるのだ。一方でセリーヌは男に対して臆病になっていて、せっかく愛を見つけたと思っても成就できない。父親の愛を知らずに育った女がたどる両極端の人生をタノヴィッチ監督は冷たく湿った映像に丁寧に収めていく。


ラストシーン、3姉妹の母親は自分の誤解が原因で夫が死んだことを知らされるのだが、「自分は後悔していない」と断言する。なんと残酷なことだろう。タイトルバックのカッコウの託卵映像はつまり、他人の子を自分の子と思い込んで育てるということ。3姉妹はみな母親の不倫の子ということなのだ。3姉妹の愛に満たされない人生を描きつつ、愛に一番裏切られたのは彼女たちの父親だったという皮肉。愛にまつわるミステリーの結末はあまりにも残酷だ。しかし、その余韻は強烈で女の情念を十分に予感させるものだった。


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