こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

リバティーン

otello2006-04-14

リバティーン THE LIBERTINE


ポイント ★★
DATE 05/12/22
THEATER メディアボックス
監督 ローレンス・ダンモア
ナンバー 159
出演 ジョニー・デップ/サマンサ・モートン/ジョン・マルコヴィッチ/ロザムント・パイク
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


粗野にして奔放、下品ながら機知に富む。権威を嫌い常識と礼儀を笑い飛ばす。近世イギリスに生きた豪快な一人の貴族の波乱に満ちた生涯を描いているのだが、まさにこの役にぴったりのはずのジョニー・デップに精彩がない。演じ方によってはその破天荒な生き方が心地よいカタルシスを生むはずなのに、抑え気味の演技とライティングが負のオーラをまとった作品にしてしまった。暗さの中にも現代に通じるようなメッセージが凝縮されたエッセンスとなっていれば楽しめるのだが、この物語からは権力への皮肉も反骨の精神も感じられない。


1670年代のイギリス、高位の貴族・ジョンは王に反抗的な態度をとり続けている。ある日、酒とセックスを愛する詩人で劇作家でもあるジョンは女優に一目ぼれして演技指導を申し出る。彼女を育てる一方、王からフランス大使を接待する芝居を作れと命じられ、ただひたすら出演者がセックスを繰り返すだけの芝居を上演し、またしても王の怒りを買う。


ジョンという男は何ゆえ王に対して無礼を繰り返し、妻を裏切り続けるのだろう。変人なりに理屈が通っていると思えばただの気まぐれだったりする。その、先の読めない言動に彼を取り巻く登場人物以上に見るものは振り回される。挙句の果てに入れあげた女優には振られ、妻にも逃げられ、王に追われる身になる。ジョンの中になにかに憑り付かれたような情熱的なところがあれば感情移入もできるのだが、ただ自分の人生を自分の手でぶち壊している愚か者にしか見えない。


確かに演劇に大胆なセックス観を導入したジョンは、シェイクスピアを見飽きた当時のイギリス人には刺激的で新しさを感じさせるものなのだろう。しかし、ジョン自身に時代の改革者や先駆者といった自覚がなく、大衆に迎合しているだけ。王を風刺すれば大衆に支持されるだろうが、あそこまで品格に欠けてはすぐに飽きられる。梅毒に冒されたいんちき医者の姿がこの主人公には一番似合っていた。


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