こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クライング・フィスト

otello2006-04-17

クライング・フィスト


ポイント ★★★★
DATE 06/3/22
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 リュ・スンワン
ナンバー 43
出演 チェ・ミンシク/リュ・スンボム/イム・ウォニ/ピョン・ヒボン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


第2ラウンド、ゴングとともにコーナーを飛び出した2人のボクサーを手持ちカメラが追う。時に寄り、時に引き、ボクサーとレフェリーの間を縫うように動き回って拳の競演をフィルムに焼き付ける。そして、再びゴングが鳴ってボクサーたちがセコンドの元に戻るまでをワンカットで撮る。この奇跡的ともいえる流麗なカメラワークは、スコセッシの「レイジング・ブル」を凌駕する美しさ。自分の誇りと存在意義を示すために命がけで戦う男たちの、血と汗と魂の叫びをスクリーンに熱く再現している。


北京アジア大会のボクシング銀メダリスト・テシクは事業の失敗と借金のために家族に見放され、今は殴られ屋として生計を立てている。一方、チンピラのサンファンは強盗で捕まるが、少年院でボクシングに出会ってのめりこんでいく。そして、テシクは息子に父親としてのプライドを、サンファンは愛する祖母に立ち直った自分を見せるためにリングに上がり、新人王トーナメントの決勝でグローブを交える。


テシクを演じるチェ・ミンシクの重厚な味わい、サンファンを演じるリュ・スンボムのシャープな切れ味。2人のエピソードが交互に語られることで映画は相乗効果をもたらし、2人の運命は試合まで交差しないのに、落ちぶれたとはいえ大人の責任を果たさなければならないテシクが、サンファンに責任の重さを教えているような感覚に陥る。


2人の主人公の心理を象徴するように、前半の粒子の粗いすさんだ映像が時間を経るにしたがって明確な形を成す。それは2人の空っぽの心に芽生えた夢や希望や目標が膨らんでいく過程に応呼する。人生を諦めていた中年男が再び人生に希望を見出し、人生をなめていた少年が初めて真剣に人生に立ち向かう。「ボクシングは人生の縮図」という言葉をクリアに実感させてくれる作品だった。ただ、この試合の勝敗を明確にするより、「両方とも勝者」というような余韻を持たせた結末にしてもよかったのではないだろうか。

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