こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

寝ずの番

otello2006-04-21

寝ずの番



ポイント ★★★*
DATE 06/4/16
THEATER ワーナーマイカル新百合ヶ丘
監督 マキノ雅彦
ナンバー 57
出演 中井貴一/木村佳乃/笹野高史/長門裕之
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人生を目いっぱい楽しんで生きた人間は、死んでも楽しい記憶を生きている者に残す。通夜の席でも湿っぽい話より腹を抱えて笑うような思い出話ばかり。自分が死んだあとはこういう葬式をしてほしいという原作者と監督の生死感が色濃く、一つ一つのエピソードが強烈な思いとなって描かれる。ほとんどが女と酒にまつわるヨタ話なのだが、アホなことをするにも真剣になる落語家という人種の一種理想に近い生き方。カネや権力を求めるのではない、カッコつけるのでもない。人間的な部分を包み隠さずさらして笑いを取る、そんな生き方を全うした人々の通夜の席では、局部の名前を連呼しても粋に聞こえる。


上方落語会の重鎮・笑満亭橋鶴がいまわの際に「そそが見たい」と言い出し、弟子のひとりが自分の嫁の性器を見せる。程なく橋鶴は臨終、その通夜の席で弟子たちが思い出話にふけるが、シモネタのオンパレード。やっと通夜がすんだと思ったら、今度は一番弟子の橋次、おかみさんとあとを追うようになくなり、その通夜の席でも延々と下半身がらみの思い出話が繰り広げられる。


おかみさんの通夜の席に現れた堺正章扮する元恋人と、中井貴一扮する弟子の一人がの座敷歌で盛り上がるシーンはまさに圧巻。いい年した大人がオメコチンポの大合唱をするのだが、それがまったく下品に聞こえないから不思議だ。それもオッサンだけでなくおばさん、若奥さんまで加わっての踊れや歌えの大宴会の様相。天寿を全うして鬼籍に入った人を送るのは喜ぶべきことという思想が、この作品を底抜けに明るいものにした。


落語という芸の世界では超一流でも、私生活はハチャメチャ。しかしそれは計算されたものではなく、心の広いところがあると思えばすごくせこかったりもする。一般社会からはみ出て、お笑いの世界でしか生きられない人々の、他愛ないけれど人間味にあふれたエピソードの数々を人間讃歌のレベルにまで昇華したマキノ(津川)雅彦監督の、人生に対する愛情があふれ出ていた。


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