こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ナイロビの蜂

ナイロビの蜂 THE CONSTANT GARDENER

ポイント ★★★*
DATE 06/5/15
THEATER 新宿文化シネマ
監督 フェルナンド・メイレレ
ナンバー 72
出演 レイフ・ファインズ/レイチェル・ワイズ/ダニー・ヒューストン/ユベール・クンデ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


彩度を落としたフィルムに手持ちカメラによる不安定な映像を焼き付ける。それは主人公の不安と恐怖、それでも真実を知らなければならないという強烈な意図。自分だけが知らされていない妻の秘密とその背景にある壮大な陰謀を調査していくうちに、自分がいかに妻を愛し妻が自分をどれほど愛していたかを知る過程は悲しみ以上に切ない。だがそれは、決して取り戻すことができない、かけがえのない命を求めてアフリカの大地をさまよう男の、すべてを失った者の強さでもある。


ナイロビに赴任中の英国外交官・ジャスティンの妻・テッサが襲撃され、惨殺される。テッサはアフリカで医療ボランティアをする傍らで、新薬開発のために製薬会社がアフリカ人を治験材料にしていたことを突き止め、証拠を集めている途中だった。その新薬の副作用で多くのアフリカ人が死んでいた。


アフリカの貧困に付け込み、人命より企業の利権を優先する先進国の理論と、それを見て見ぬ振りをする役人の腐敗。物語はそういった事件の背景を、ジャスティンの行動を克明に追うことで浮き彫りにする。何よりも情熱的で不道徳を憎み、権力に媚びることなく行動するテッサ。そんな妻の強固な意志を知るうちにジャスティン自身も行動力を身につける。映画は企業や役人の不正を暴くよりジャスティンのテッサを思う気持ちを丹念に描くことで、人間を突き動かすエネルギーとは何かを問う。


妻の死の真相を追ううちに巨大な陰謀を暴いていくというミステリーの王道より、その夫婦の愛の深さと夫が体験する未知のものを恐れる気持ちを前面に押し出した展開はもたつきを禁じえない。それでも自分の正義は常に正しいと思い込んでいるテッサのような女性を愛してしまったジャスティンの心の彷徨が、レイフ・ファインズによって繊細な綾となって紡ぎだされる。壮大な無力感の中で、ジャスティンが確かな愛だけを実感できたのは救いだった。


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