こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヨコハマメリー

otello2006-05-24

ヨコハマメリー


ポイント ★★*
DATE 06/5/19
THEATER 池袋東急
監督 中村高寛
ナンバー 76
出演 ///
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


他人の施しを潔しとしない。友情に篤く義理堅い。他人に頼らず自分の生き方を通す。ハマのメリーを知る人の口から漏れる彼女の人物像から想像されるのは、プライドが高い孤高の人であるということ。突然姿を消した街の名物ばあさんの姿を記憶に留める者はその白塗り妖怪の面相からバケモノのような印象を持ち、個人的に交流のあったものは彼女のプライドの高さに敬意を表す。しかし、メリーの足跡をたどる旅のはずが話はたびたび横道にそれ、時にじいさんばあさんの思い出話を聞かされる羽目になる。


白いドレスに身を包み、白塗りの顔に眉と唇を描いた独特のメークで横浜・伊勢崎町では知らない者がいなかった街娼のメリー。かつて横須賀では駐留米軍将校相手しか相手にしなかった高級娼婦だったのに、いつしか横浜に流れてきて、そのまま伊勢崎町で商売を続ける。彼女は置屋に属さず、ただひとり街角に立って夜な夜な自分の体を売っていたという。


知らない人はいないけれど詳しいことは誰も知らない。そんなハマのメリーを題材に選んだ中村監督の嗅覚は鋭い。しかし、プロの作品としては取材対象に対する切込みが甘い。メリーのことを直接知っている人々にインタビューをして回るわけだが、シャンソン歌手の元次郎のように時にメリーとは関係のない取材相手の生い立ちにスポットを当てたりする。他の人間が語るエピソードにしてもメリーの表層的な部分を語っているの過ぎず、そこからメリーがどういう気持ちで老いさらばえた後も伊勢崎町に立ち続けたかをうかがい知ることはできない。


中村監督はメリーの居場所を突き止め、元次郎と共に彼女のいる老人ホームを訪ねる。そこで白塗りを卒業したメリーをカメラに収めることに成功する。しかし、メリーに直接話を聞くことなく映画は終わってしまう。なぜこのような致命的なミスを犯すのか。メリーを主題に選び、彼女の人生を追う映画なのに肝心の本人インタビューが欠落しているのだ。カメラに撮られることを了承したのなら、自分についても語るはず。そこまで踏み込んでこそ、ひとりの街娼の人生を再現できるのだ。。


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