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映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

嫌われ松子の一生

otello2006-06-08

嫌われ松子の一生


ポイント ★★★*
DATE 06/6/7
THEATER シネクイント
監督 中島哲也
ナンバー 88
出演 中谷美紀/瑛太/伊勢谷友介/香川照之
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


堕ちるところまでとことん堕ちていく悲惨な女の人生を、極彩色で彩る豊穣な映像。原作に描かれたヒロインの悲劇を、ポップな歌声で明るい夢追い物語に変換する逆転の発想。毒々しいまでに過剰なカラーとサウンドは強烈な拒否反応を引き起こすが、いつしか感覚が麻痺しいびつな充足感に満たされていく。愛されなくなる恐怖から相手を愛しすぎ、寂しさを埋めようとしてろくでもない男に身をゆだねる。そんな女の客観的に見た悲劇より、主観的な幸福をミュージカルに仕上げた脚本は見事だ。


田舎町に生まれた松子は厳格な父に愛されたいあまり、父が望むような人生を送ってきた。やがて中学教師になるが生徒の窃盗をかばったことから免職、福岡に出て同棲、不倫、トルコ嬢と転落の一途をたどる。やがてヒモに騙されたことを知った松子は彼を殺し、東京に逃げる。


選択に迫られたとき、いつも「最悪」のほうに転んでしまう松子。しかもそれは彼女自身の意思。ろくでもない男と別れたら、もっとひどい男とくっつき、暴力を受けたら更なる暴力という不幸のデフレスパイラル。まるで松子は「最低の人生」や「最大の不運」を求めてさまよう冒険者のようだ。それは父に愛されなかったトラウマを埋めるため。愛されないならせめて誰よりも愛そうと決めた女が、自分の決意がどれだけ固いものかを試す過程なのだ。だからこそ自分が愛されたり心配されたりすると急に臆病になる。それでも松子自身がずっと夢見る少女の気持ちを忘れず、「愛する男と地獄に落ちるのが私の幸せ」と言い放つシーンには、自分が悲劇のヒロインであることに陶酔しているようだ。後に龍というヤクザが彼女に神を感じるというシーンに説得力を持たせている。


ただ、サイケデリックな映像で松子の生涯を追うのはよいのだが、甥が松子の足跡を追うという現在進行形のパートは表現法を変えるべきだろう。松子が見続けた夢と現実のギャップをきちんと描かなければ、この物語が持つファンタジー性が希薄になる。

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