こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

不撓不屈

otello2006-06-23

不撓不屈


ポイント ★★★★
DATE 06/6/19
THEATER 池袋東急
監督 森川時久
ナンバー 96
出演 滝田栄/松坂慶子/三田村邦彦/夏八木勲
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


民間人に権力をひけらかし跪かせることを当然と思っている国税庁と、弱者の痛みを知る税理士。強烈な「お上意識」を持つ役人たちのいやらしいまでの国民を見下した尊大な態度には、納税者に対する敬意のかけらもない。1960年代の、官尊民卑の風潮と国民の財産を貪る役人の原型がリアルに描かれる。一方、どんな状況に追い込まれても良心の命じるままに行動する税理士の凛とした姿が美しく、「私は決して強い人間ではない」という主人公を陰で支える家族の結束もぶれない。典型的な役人のメンタリティと理想的な家族の絆を通して、男が信念を貫くとはどういうことかを力強く描く。


税理士の飯塚は顧客に「別段賞与」という節税法を伝授するが、国税庁は脱税として飯塚を追い詰めていく。飯塚は家宅捜査を受け、顧客を失い、部下が逮捕されるが、決してひるむことなく権力に立ち向かう。そんな時、思わぬ協力者が現われて、形勢が逆転する。


まるで60年代の映画を見ているような語り口。ナレーション、カメラの位置、俳優の演技、しっとりとした質感のフィルムから、小道具に至るまで、映画の表現術そのものが描かれた時代と綿密に同化している。そうしたディテールに対するこだわりが作品に命を吹き込み、古い映画のような錯覚を覚えるのだ。特に、飯塚の家庭では妻は夫に、子は親に敬語を使って会話を交わすという現代ではありえない習慣が残っている。そんな、幼長の序という礼節の基本となる価値観がきちんと描かれていることに好感が持てる。ここでは「友達家族」などというばかげた幻想はなく、正義のために闘う父に子は全幅の信頼を置いている。家庭における道徳観が孤軍奮闘する主人公だけでなく、映画全体を根底から支えている。


7年の法廷闘争を経て飯塚は無実を証明する。おそらく裁判費用などで飯塚家の生活は苦しかっただろう。それでも飯塚は「国家と戦い無実を勝ち取った」ことが自分の武器になることを知っている。目先の利益にとらわれず長期的視野で物事を捉え、基本的な方針は変えないことが結果的に他人の信用と尊敬を勝ち取る。ビジネスにおけるお手本のような生き方だが、順風であろうと逆風であろうと清清しい風に思える。


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