こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サイレントヒル

otello2006-07-12

サイレントヒル SILENT HILL


ポイント ★★★
DATE 06/7/8
THEATER ワーナーつきみ野
監督 クリストフ・ガンズ
ナンバー 109
出演 ラダ・ミッチェル/ショーン・ビーン/ジョデル・フェルランド/ローリー・ホールデン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


孤独と恐怖、そして圧倒的な悪意の中で娘を探さなければならないという思いだけが母親を衝き動かす。ヒロインの五感を体感させるようなシャープな映像はキレがあり、リアルな悪夢を見ているような感覚は最後まで疾走をやめない。個人の強烈な怨念が街全体をパラレルワールドに離陸させ、生き残った人間に永遠の責め苦を与え続けるという無間地獄を再現したヴィジュアルは細部にいたるまで精緻を極める。二転三転する展開は見るものを飽きさせず、人間の心に巣食う闇の深さを抉り取る。


ローズの娘・シャロン夢遊病で「サイレントヒル」という街の名前を口にすることから、シャロンの心の病を癒すためにサイレントヒルに向かう。しかしそこは30年前の大火事で街全体が封鎖されたゴーストタウン。ローズは事故に遭い、気がつくとシャロンの姿が消えていた。シャロンを探すうちに、そこはゾンビが徘徊する恐ろしい街で、生存者もいることが判明する。


絶え間なく灰が降り注ぎ街全体をおおう。その灰色にくすんだトーンが陰鬱な気分を増長させ、ローズの心象を観客に共有させる色彩感覚は見事だ。物語が進行していくうちに理屈よりも生理に訴えるような不快感が増す一方、子供や看護婦の姿をしたゾンビのカクカクした動きには思わず笑ってしまう。おどろおどろしさの中にちょっとしたユーモアをブレンドする匙加減がよく、緩急の付け方がとてもうまくできている。


街を包む悪意の正体はかつて街の狂信者たちに魔女の烙印を押された上に火あぶりにされた少女・アレッサの恨みであることが明らかになる。シャロンサイレントヒルというパラレルワールドから現実世界へ送り出したアレッサの分身。ローズという母親を使って、自分を火あぶりにしたものたちへ復讐したということ。ラスト、異次元に閉じ込められた母娘は家に帰っても父親とは会えない。全編を通じてキーパーソンはすべて女性、父権の不在を強調するのは産む性の生に対する欲望の強さを強調したかったからなのだろうか。。


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