こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

太陽 

otello2006-08-09

太陽 


ポイント ★★*
DATE 06/7/5
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 アレクサンドル・ソクーロフ
ナンバー 106
出演 イッセー尾形/ロバート・ドーソン/佐野史郎/桃井かおり
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「あっ、そう」。彼のその口癖は自分自身の苦悩や感情すら客体としてしか見ることができなくなった男の現実逃避の手段だ。現人神として国民から崇められ、人間としての自由を放棄せざるを得なかった天皇という存在にどうして自分が選ばれたのか。その問いに答えはなく、彼は答えを探そうとしても無駄であることを知っている。国権の最高位にありながら、自分自身には何の決定権もない。言葉も表情も極端に少ない映像は、天皇というシステムの犠牲になった男の心の軌跡を鮮明に切り取る。


太平洋戦争末期、防空壕内で生活する昭和天皇は御前会議で降伏を受け入れることを遠まわしに宣言する。やがて米軍が日本を占領、天皇マッカーサーの下に会見に出向き、敗軍の将としての扱いにも気持ちを押し殺したまま。やがて天皇人間宣言することを決意する。


気心の知れているはずの侍従や側近の前でも神として振舞わなければならない息苦しさ。ホンネを吐露できる相手すらおらず、その孤独は深まるばかり。もはや彼には生気はほとんどなく、趣味の生物研究の場でしか安らぎを得ることはできない。ヘイケガニの標本を観察しながらその薀蓄を滔々と述べるシーンは、その熱中ぶりが哀しい笑いを誘う。つらい現実から目を背けられる唯一の時間。あらためて神という存在の非人間性を問う。


天皇は敗戦の責任というひとりで背負うには大きすぎる重圧の中で、マッカーサーの侮辱にも耐え、米兵の失礼な振る舞いも意に介さない。むしろ自分への態度にまったく悪意を感じていないかのよう。その超然とした姿勢が余計に天皇には戦争責任が及ばない軍部の傀儡でしかなかったことを暗示する。ただ、あまりにも抑制が効きすぎた演出とイッセー尾形の演技は起伏に乏しく、間延びした印象が非常に強い。あまりにも単調なトーンの繰り返しは、深い感銘よりも眠気を誘うだけだ。


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