こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ユナイテッド93

otello2006-08-11

ユナイテッド93 UNITED93


ポイント ★★★★*
DATE 06/6/5
THEATER UIP
監督 ポール・グリーングラス
ナンバー 86
出演 クリスチャン・クレメンソン/トリッシュゲイツ/ポリー・アダムス/オパール・アラディン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


まるで潜入取材班による実況中継を見ているような緊迫感に、一瞬たりともスクリーンから目が離せない。たとえほとんど可能性がなくても、自分から運命を切り開こうという行動力。テロリストに立ち向かい、命を犠牲にしてでも状況を打開しようとする正義感。あくまでリアリズムに徹した手法は安易なヒロイズムとは一線を画し、普通の人たちの心にある「敢然たる決意」をクールな視点で描く。この事件の顛末は誰もが知っている。それでも最後まで屈することなく散っていった人々の勇気に、敬意と賞賛を覚えずにはいられない。


2001年9月11日朝、ニューアーク空港を飛び立ったユナイテッド93便は4人のテロリストにハイジャックされる。乗客たちはは電話で家族と連絡を取るうちに、他にも3機の旅客機が乗っ取られ、WTCやペンタゴンに墜落したことを知る。男たちは飛行機を取り戻すべく、武器を手に反撃を試みる。


たまたまテロリストと乗り合わせたがために、自爆テロの道連れにされた一般市民たち。しかし、映画は彼らの機内における「今」しか描かない。乗客乗員は飛行機が高度を落とし、目標物に近づくなかで必死で家族に連絡を取り、何が起きているか知ろうとする。そして自分が得た情報を他の乗客に伝え、何とか事態を打開しようと策を練る。狭い機内で犯人への怒り、愛する者への思いが交錯し、そんな極限下でも冷静に状況を分析し反撃の機会をうかがう。刻一刻と迫りくる最後の瞬間に向かって映画のテンションは破裂寸前まで張り詰める。


まるでこの事件の犠牲者の恐怖と愛と無念が映画に乗り移っているようだ。犠牲者だけでなく管制官や空軍、そして犯人の意志にすら等しくカメラを向け真実を語ろうとする構成は、濃密かつ重厚だが研ぎ澄まされた刃物のよう。事件から5年、見るものはまだまだ風化することのない記憶に追悼の意を新たにする。この日の凄惨な出来事と、勇敢にもテロリストの企みを阻んだ人々を決して忘れてはいけない。


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