ハッスル&フロウ HUSTLE AND FLOW
ポイント ★★★
DATE 06/7/31
THEATER UIP
監督 クレイグ・ブリュワー
ナンバー 123
出演 テレンス・ハワード/アンソニー・アンダーソン/タリン・マニング/DJクオールズ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
米国において貧困にまみれた生活から抜け出す方法はかつてボクシングやバスケットボールといったスポーツで成功することだったのが、新たにヒップホップがアメリカンドリームを体現する手段としてメジャーとなった。ノリのいいリズムに合わせて心の叫びを脚韻を踏んだ言葉で表現する。この作品を見ていると怒りや不満といった暴力的衝動こそが創作のエネルギーになり、大きなうねりとなってやがて社会を変革していくのではないかという予感すらする。かつてフォークソングが反戦と自由のシンボルだったように、ヒップホップは社会的格差に対する貧困層の革命歌なのだ。
メンフィスのしがないポン引き・Dジェイは、同じ街出身のスターが凱旋公演すると聞き、かつてヒップホップを目指した血が騒ぐ。早速仲間を集め新作に取り掛かり、自宅に作った即席スタジオでデモテープを録音する。
公共の電波に乗せる以上あまり下品な言葉は使えない。それでもインパクトのある単語で魂の慟哭を強烈にぶつけたい。限られた時間と予算という厳しい環境でDジェイは必死でアイデアを練り、ビートを刻む。その過程で友人や家族の存在の大切さにも気づき、彼自身が人間的に成長していく。特にDジェイが面倒を見ている売春婦・ノラとの間に不思議な、しかし確固たる信頼関係が横たわっているのには安心させられる。もちろん彼らは非合法なチンピラと売女にすぎないのだが、人を騙したり裏切ったりはせず商売としてはごく正直にやっている。そのあたりとても好感が持てた。
結局、些細なきっかけでDジェイはムショに入れられ、彼らの夢はついえたかに見える。夢など見ないほうが失望しなくてすむ、そんな教訓かと思ったが、もう一度逆転させて見事なハッピーエンドに持ってくる。そのあたりの手腕は洗練されていてとても後味のよい作品だった。