こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

キンキーブーツ

otello2006-08-31

キンキーブーツ KINKY BOOTS

ポイント ★★★*
DATE 06/8/28
THEATER シャンテ
監督 ジュリアン・ジャロルド
ナンバー 139
出演 ジョエル・エドガートン/キウェテル・イジョフォー/サラ・ジェーン・ポッツ/ユアン・フーバー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


やる気と仲間と少しの勇気があれば、できないことはない。それは若者にだけ向けたメッセージではなく、中年に達した人間でも同様。八方塞の状態からちょっとした発想転換で一転突破、自信を取り戻していくというありふれたパターンながら、おかまダンサーが幸運の女神を演じるというアイデアのおかげで最後まで飽きさせない。中小企業経営者の苦悩だけではなく、性的倒錯者と彼に偏見を持つ周りの人々の心の変遷まで丁寧に描き、後味も心地よい。


父親の急死で伝統ある靴工場の社長となったチャーリー。しかし経営は火の車で早速リストラを始めるが、ローレンという女工の一言で新製品開発に乗り出す。ロンドンで偶然知り合ったおかまダンサー・ローラのアドバイスのもと、おかまダンサー向けのハイヒールブーツの製作をはじめる。


映画の4分の1も見ればその後の展開は予想できるし、映画のほうも決して予想を裏切らない。その上で、女性以上に女らしい心を持つローラの「靴はセックス」と言い切る靴に対するこだわりや、そんなローラを異物を見るような目で見る保守的な人々と対立と理解、なにより女装の時は鮮やかな原色を堂々と着こなしているのに、男装の時には地味な服に身を包み弱気になってしまうローラの複雑な感情のディテールをカメラは掬い取る。特にドンという荒くれ男に対してローラが見せた心遣いと、それに応えたドンの心意気。外見がどうであれ人間は必ず理解しあえるということを、さらりと描くことで強調する脚本の手腕は見事だ。


そしてミラノでの発表会の直前にも揉め事があってハラハラさせるのだが、トラブルを逆手にとっての大成功と恋まで成就させるという大団円。コメディのセンスだけでなく、悩みや向上心といった心の問題までその表現は洗練されていて、安心して見ることができる。太ももまである赤エナメルに細い高いヒール、こんなブーツを履いたらどんな人間でも「違う自分」を発見するだろう。


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