こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フラガール

otello2006-09-23

フラガール


ポイント ★★★★
DATE 06/9/11
THEATER 映画美学校
監督 李相日
ナンバー 151
出演 松雪泰子/豊川悦司/蒼井優/岸部一徳
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


夢を追い、仲間と共に進む。努力、友情、ちょっとした勇気、そして挫折。愚直なまでにまっすぐなその姿をとらえる姿勢は、意外性がない代わりに安心して映画の世界に浸れる。何とか自分たちの将来を自分たちの手で掴み取ろうとする若い女性たちを通じて前向きに生きる素晴らしさを描き、家族や隣人の人情を細やかに描くことで感情のツボを刺激する。いずれの演出もくどさを覚える一歩手前で抑えているので、さわやかさな印象は損なわれていない。何よりももう後がないという登場人物たちの切実さが見事に伝わってくる。


昭和40年、石炭減産のあおりを受け廃坑寸前の常磐炭鉱にハワイアンセンターを作る計画が持ち上がる。炭鉱の娘・紀美子はダンシングチームに応募、他の娘たちと共に東京から来たダンサーのまどかのもとで厳しい特訓を受けてプロのフラダンサーを目指す。


炭鉱の長屋からボタ山、ファッションから自動車まで、当時の風景を細密に再現しているうえに、訛りのきつい東北弁をしゃべるヒロインがとてもキュート。都落ちダンサーの口から飛び出す東京弁とのコントラストが鮮やかで、東京化されていなかった当時の田舎の美しさがそのまま保存されているようでとてもうれしくなる。閉山で希望をなくす大人たちと、ダンスが先が見えている人生から抜け出すチャンスととらえる娘たち。沈滞した空気の中で目標を持ち続けることの大切さを教えてくれる。


最初はやる気がなかった講師のまどかが、女の子たちの切迫した気迫に押されて自分もまた人生に希望を取り戻していくというパターンもステレオタイプだ。しかし、たとえドラマの構成やキャラクターが通俗的でも、設定に目新しさがあれば、奇をてらわず真正面から映像にしていくことで映画に対する信頼感が生まれてくる。そしてクライマックス、紀美子のワンマンショーも、蒼井優のダンスに対する理解の深さと表現力や情熱といったものをカメラは余すことなくフィルムに焼き付ける。笑わせ泣かせ楽しませる、観客に対するサービス精神に溢れる作品だった。


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