こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

夜のピクニック

otello2006-09-29

夜のピクニック


ポイント ★★★*
DATE 06/8/24
THEATER シネマート
監督 長澤雅彦
ナンバー 136
出演 多部未華子/石田卓也/郭智博/西原亜希
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


高校生、いや人間というものは一夜でこれだけ成長できるものなのか。ただただ仲のいい友人たちと歩き続け、疲れ果ててもなおゴールまで足を止めることはない。体だけではなく脳まで困憊しきったとき、心の中をすべてさらけ出すことができる。誰にもいえなかった秘密、心の中のわだかまり、友情、そして恋。大人への通過儀礼を通して、不良でもなくエリートでもない高校生の等身大の青春の一コマをさわやかに描ききり、大人になった観客にも「もう一度あのころに戻りたい」と思わせる。


丸々一昼夜かけて80キロの行程を歩く県立北高の伝統行事「鍛錬歩行祭」。3年の貴子は同じクラスの西脇に今年こそ話しかけようと願をかける。西脇のほうも貴子を気にしているが、彼女に対する態度は異常によそよそしい。貴子と西脇は実は異母兄妹で、高校入学以来気まずい関係が続いていた。


24時間を通して、貴子と西脇の距離がどれだけつめられるか。お互いに必要以上に意識しし合っていることが友人たちにもばれていて、友人たちはそれを恋だと勘違いしている。彼らの誤解を解きたいのだが、親の恥をさらすようで親友にも打ち明けられない。西脇のことを聞かれるたびに無関心を装いながらも、実は背中を押してくれることを期待している貴子の複雑な心境を、不機嫌な中にもふと請うような光を瞳に宿らせるという微妙な表情を見せる多部未華子が絶妙。何とかして西脇と理解しあいたい、でもひとりじゃ勇気がない。そんな貴子の気持ちをかなえようとする、損得なしに友達のことを思う同級生たちの友情が限りなくまぶしい。


ただ、この映画のターゲットとなる高校生にこびるようなエピソードが鼻に付いた。貴子の密かな願いをアニメにしたり、正義感溢れる女子の将来やロケンローラーの幻想をいちいち映像にする必要はあるまい。物語のアクセントとしてはちぐはぐで、笑いを取ろうという意図は分るが全体の流れを壊している。それでも最後には貴子と西脇が肩を並べてゴールすることで、映画に対するわだかまりもすべて氷解する。


↓メルマガ登録はこちらから↓