カポーティ CAPOTE
ポイント ★★*
DATE 06/10/3
THEATER 恵比寿ガーデンシネマ
監督 ベネット・ミラー
ナンバー 167
出演 フィリップ・シーモア・ホフマン/キャサリン・キーナー/クリス・クーパー/クリフトン・コリンズJr
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
独特の話し方と同性愛。複雑な家庭環境で育ったゆえの鋭く繊細な感性。そしてもって生まれた記憶力。20世紀中ごろの米国がまだまだ保守的だった時代に先鋭的な生き方を貫いた作家・カポーティが、文学史上初めて挑んだドキュメンタリーノベルという手法の誕生秘話を通して、人間心に宿る悪意の根源に迫る。しかし、死刑囚との交流はついに核心にまで至ることができず、カポーティの片思いに終わる。なぜ、4人もの無辜の人間を惨殺したかという死刑囚の人生への踏み込みが甘く、映画自体もカポーティの後半生のように茫洋とした印象になった。
カンザスの農家で一家4人が銃殺死体で見つかり、しばらくして2人組の犯人が捕まる。NYの作家・カポーティはこの事件に興味を持ち、早速現地で調査を始める。やがて犯人のひとり・ペリーと面会するうちにカポーティは彼の半生に興味を持ち始める。
実際の事件をヒントに小説を書くという、現在ではありふれた手法も当時は斬新だったのだろう。思い立ったらすぐに現地に赴くカポーティの行動力とパートナーのネルの調査力や、個人情報保護などという概念がなかった時代の警察や関係者の協力的な態度。また、カポーティ自身が変わり者という目で見られてきたという体験から堅い口を開くインタビューの技術。そうした過程がひとつの作品として昇華されていく。しかし、取材に苦労した様子はあまりない上、創作の苦悩のようなものがないのは彼が天才であるゆえか。カポーティの「変人ぶり」以上に共感できるような感情を描いてほしかった。
カポーティはペリーの生い立ちを調べるうちに、彼を自分の分身と断じる。そしてペリーの死刑執行に立会い最期を見送る。しかし、ペリーに被害者に対する贖罪の気持ちが芽ばえることはなく、カポーティも喪失感に苛まれることはない。結局、カポーティという作家の魅力が、フィリップ・シーモア・ホフマンの演技以上に表現できていなかった。