こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ワールド・トレード・センター

otello2006-10-07

ワールド・トレード・センター WORLD TRADE CENTER


ポイント ★★★
DATE 06/8/31
THEATER UIP
監督 オリバー・ストーン
ナンバー 142
出演 ニコラス・ケイジ/マイケル・ペーニャ/マリア・ベロ/マギー・ギレンホール
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


巨大な破壊を伴った力の前では、ひとりの人間などいかに小さい存在にすぎないか。爆風に飛ばされ、火に焼かれ、瓦礫に押しつぶされる。それでも、そんな小さい存在がたくさん集まれば大きな善意となり、連帯し、もう一度人々が助け合わなければならないことを思い出させる。大規模テロとその後に続く泥沼の戦争にはあえて目を瞑り、平凡な人間の勇気と生きる力、そして自分も何かをしなければならないという気持ちを持った人々の行動力にスポットを当てた脚本は潔い。


911テロに見舞われたワールド・トレード・センターに救助に向かった警官隊が、ビルの崩落とともに瓦礫の下に閉じ込められる。ジョンとウィルは生き残ったが身動きが取れず、お互い励ましあいながら救助が来るのを待つ。


陰謀や悪意といったものはここには登場しない。ただ、目の前で繰り広げられている未曾有の大惨事に巻き込まれた警官がなんとか生き延びようとする姿と、彼らの家族と彼らを助けようとする人々の姿が描かれるだけだ。痛みと絶望感のなかで、お互いの家族のことを思い出し話して聞かせるジョンとウィル。絶体絶命の状況で家族だけを思い、家族もまた彼らの安全を願う。そしてボランティアで救助に当たる海兵隊員は夜になっても捜索を止めない。そういった人間同士に横たわる大きな愛と思いやりがこの作品を支えている。


ただ、この設定だと何もわざわざ911テロを背景にしなくてもよかったはず。冒頭の30分を見なければ、普通の災害救助ドラマと変わらないではないか。あえて911のにおいを消すことで政治的なメッセージを排除しようとしたのだろうが、それがかえって愛や善意といった普遍的なテーマに落ち着いてしまって物足りない。やはりあの日にしか起こり得なかったエピソードを盛り込み、事実だけが持つテロ現場のリアリティをもっと再現してほしかった。


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