こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

いちばんきれいな水

otello2006-10-12

いちばんきれいな水


ポイント ★*
DATE 06/7/19
THEATER 映画美学校
監督 ウスイヒロシ
ナンバー 114
出演 加藤ローサ/菅野莉央/南果歩/カヒミ・カリィ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


難病で昏睡状態に陥った少女が目を覚ますと、赤ちゃんだったはずの妹がすっかり自分より成長していた。そんなギャップに戸惑いながらも、8歳の精神年齢のまま失われた時間を取り戻そうとするヒロインを加藤ローサは天真爛漫な笑顔で好演している。しかし、カット割りはぬるく、音楽のセンスが悪いうえ、物語のテンポが悪いためにアマチュアの作品にしか見えない。上映時間が短かったことが救いだ。


小学6年の夏美には11年間眠ったままの姉・愛がいるが、両親が突然旅行で家を留守にした間に彼女が目を覚ます。精神の成長が止まったままの愛の子供じみた行動に夏美は戸惑いながらも、徐々にふたりは姉妹の絆を取り戻していく。


中学受験のために夏休みも塾で試験漬けの毎日を送る夏美にとって、愛は姉なのに手のかかる妹のよう。しっかりと将来を見据えて勉強する夏美に対し、「この夏は1回だけ」と貪欲に楽しみを追う愛はまるで自分が正気でいられる時間に限りがあることを知っているかのよう。両親が出かけたから意識が戻ったのだから、両親が戻る前に眠りの世界に戻ってしまう。かつて自分の身代わりに殺そうとしたたった一人の妹・夏美と二人きりになれたからこそ愛は謝るために目を覚ましたのだ。愛の底抜けの明るさがかえって悲しみを誘う。


しかし、その割には夏美の愛に対する思いが描かれていない。夏美にとって愛はいつも寝顔を見ているだけの存在で、どんな性格かは知らないはず。そんな姉を、いくら大人びているとはいえやはり6年の少女はひとりで受け止められない。そのあたりをあまり深刻に描かずに、愛に残されたわずかな時間を夏美も一緒に楽しむというくらいの楽天的な展開にしたほうが、愛が眠りに戻った後の夏美の感情の振幅も大きくなったはず。夏美のほうにももう少し軽いノリがあれば、祭りの後の寂しさのような喪失感が描けていたはずだ。


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