こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

幸せのスイッチ

otello2006-10-16

幸せのスイッチ


ポイント ★★★*
DATE 06/8/16
THEATER メディアボックス
監督 安田真奈
ナンバー 131
出演 上野樹里/本上まなみ/沢田研二/中村静香
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


カネよりも信用、効率よりもサービス。田舎の人間関係を大切にして生きる父親と、東京で生きようとする娘。父娘の反発と和解を中心に、いまや量販店に押されて絶滅寸前の「街の電器屋さん」を舞台に、人と人との濃密な触れあいを軽妙ながらも人情味溢れるエピソードで綴る。甘すぎず冷たすぎず平凡な家庭に起きた大事件を丁寧に重ねていく脚本と、ヒロインの心境の変化を忠実にトレースする演出がテンポもよく小気味よい。


デザイン事務所をやめた怜は、故郷で電器店を営む父親が大ケガをしたことから実家に戻る。身重の姉と高校生の妹と共に、父のいない店を預かるが、電器店の仕事に身が入らない。しかし、得意先巡りをしているうちに、父がいかに地域の人から頼りにされているかを知る。


物分りのいい長女、はねっ返りの次女、人当たりのいい三女、そしてお客様第一を貫く頑固な父。この家族の性格の配分が見事で、父と次女・怜の軋轢とその緩衝材の役割を見事に分担している。本当は怜のことを愛しているのに素直に口に出せない父、そんな父を鬱陶しいと思いつつも仕方なく言うことを聞いている怜。2人の心が次第に接点を見出し、ひとつにつながっていく過程があたたかく心地よい。特に不機嫌な怜の顔から徐々に険が取れていく様子に、見ているものもホッとさせられる。


嵐の夜、父は病院を抜け出してまで客の修理依頼に応える。あくまで自分で売った物に対する責任を全うしようとする父のプロ意識に、自分の生き方の甘さを思い知らされる怜。更に、父の浮気疑惑も晴れ、怜は父の胸の内を知る。頑固オヤジと今風の娘という家族の間の対立と和解。描きつくされたような題材ながら、小さな電器店という世界をリアルに再現し、上野樹里という頭のいい俳優を使うことで見事に血の通った作品に仕上がっている。


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