こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

天使の卵

otello2006-10-24

天使の卵


ポイント ★★
DATE 06/7/27
THEATER 松竹
監督 冨樫森
ナンバー 120
出演 市原隼人/小西真奈美/沢尻エリカ/戸田恵子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


美術系大学を志望する浪人生と夫に先立たれた精神科医。8歳の年齢差を越えた関係は、ただ相手と一緒にいたいという思いだけでつながった純粋で一途な恋愛だ。ただ、それは女性作家・脚本家がマーケティングしたような、いかにも「働く女性に都合のいい」ラブストーリー。社会的地位もありきちんと自立しているが恋愛には恵まれない環境にいる女性医師の前に、まだ世間のアカに汚されていない十代の若者が恋の体当たりを敢行するというプロットは、女性客の心を十分にくすぐるだろう。


予備校生の歩太は高校の同級生の夏姫という彼女がいるが、電車の中で出会った美女に一目惚れ。その美女・春妃は歩太の父のの主治医で夏姫の姉でもあった。夫に先立たれ恋に臆病になっていた春妃は歩太の好意に徐々に心を開いていく。


年下の青年に猛烈にアタックされた上に似顔絵を描いてもらったり、落ち込んでいる時に豪勢な手料理を作ってもらったり、挙句の果ては自信喪失して姿を隠したところまで追いかけてきてもらったりと、独身キャリアウーマンの願望がてんこ盛りだ。しかも妹のボーイフレンドというおまけつき。ここで本来ならば姉妹間の愛憎を絡ませるのだろうが、姉のほうを死なせることで男を奪ったことに対する贖罪も済ましてしまうというご都合主義。あまりにもセンチメンタルな展開に涙よりも失笑を漏らしてしまう。


何より、セリフにリアリティがないのが鼻白む。夏姫が歩太の母に初めて会うシーンのセリフはまるで老練なセールスレディのようだし、歩太が春妃を口説く文句は客にドンペリを注文させようとするホストのよう。いくら大人びていても二十歳にもならない若者が口にするような言葉ではない。原色の濃いしっとりとした色調の映像は確かに落ち着いた味わいを出していて、特に深く色づいたもみじはこの恋に対する思い入れの強さを物語ってはいる。しかし、その恋の思い出は絵本に書かれたおとぎ話のようだった。


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