こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サラバンド

otello2006-10-25

サラバンド SARABAND


ポイント ★★★
DATE 06/9/13
THEATER 映画美学校
監督 イングマール・ベルイマン
ナンバー 152
出演 リヴ・ウルマン/エルランド・ヨセフソン/ボリエ・アールステット/ユーリア・ダフヴェニウス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


親子だからこそ誰よりも深く愛し、親子だからこそ一度断絶するとその溝は埋めがたいほどに深くなる。親がその子供に抱く愛情は、度がすぎると束縛となり、さらに限界を超えてしまうと憎悪まで発展する。そんな、不器用にしか子供を愛せなかった父と、そんな父に反発した息子が自分の娘に対しては同じように不器用に愛し方しかできない。不毛な愛と憎しみの連鎖、それはたったひとことの謝罪で断ち切れるのに、誰も口にしない。映画は崩壊した家族の再生を試みるが、深い孤独に心を侵された主人公は頑なにそれを拒む。


マリアンが30年ぶりに離婚した夫・ヨハンに会いに行く。ある日マリアンの元にカーリンという若い娘がやってきて、父・ヘンリックの厳しいチェロのレッスンについていけないと愚痴をこぼす。ヘンリックはヨハンに絶縁された息子で、父子は憎みあっていた。


19歳の頃のヘンリックが父親であるヨハンに反発したからといって、長年根に持ち続けているヨハンの偏狭さは驚愕に値する。成長した子供が親から独り立ちを宣言するのは自然なこと。そのとき多少言葉が過ぎたからといっても、内心ではヘンリックの成長としてとらえるべきだろう。更に、ヘンリックと孫娘のカーリンの関係に水を差すような提案までして、ヘンリックを追い込んでいく。いまだに同じベッドで寝ているヘンリック父娘に対して、ヨハンはすさまじいまでの執念で復讐していく。


一方で、ヘンリックもまたカーリンに対して父親と同じ轍を踏む。しかし、ヘンリックはヨハンほど強くなく、娘の親離れに自殺を試みてしまう。呪われた血縁の前にマリアンはただ傍観するばかり。それでも自分の業の深さに気づいたヨハンがマリアンに救済を求め、更にマリアンが精神を病んだ娘に希望を見出すことで、かろうじて映画は心を取り戻す。気詰まりになりそうな物語の中で最後にやっと光を見出せることができたのは、ベルイマンの人間に対する信頼の証だろうか。


↓メルマガ登録はこちらから↓