こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

トンマッコルへようこそ

otello2006-10-30

トンマッコルへようこそ


ポイント ★★★*
DATE 06/6/27
THEATER メディアボックス
監督 パク・クァンヒョン
ナンバー 101
出演 シン・ハギュン/チョン・ジョヨン/カン・ヘギョ/イム・ハリョン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人々はみな温厚で礼儀正しく、武器もなければ傷つけあうこともない。個人のモノは村のもの、村のモノはみんなのもの。私有という概念もなく村人たちは助け合って生きている。生産手段の共有と公平な分配。この村こそが共産主義が目指した理想郷ではないだろうか。それは一方で、成長や進歩から取り残されたことを意味する。相対する兵士からお互いの憎しみを取り除くのもこのユートピアなら、兵士たちに再び武器を取らせるのもこのユートピアという皮肉に、人間の業の深さを感じる。


朝鮮戦争時、韓国軍の脱走兵と救護兵、北朝鮮軍の敗残兵、そして撃墜された米兵がトンマッコルという人里はなれた村に流れ着く。村人は誰も内戦のことなど知らず、文明から切り離された生活をしている。最初は警戒しあっていた兵士たちも、やがて村の雰囲気に慣らされて心を開いていく。


共通の敵を持つことがいかに人をひとつにまとめるか。巨大なイノシシに襲われたとき、南北米の兵士たちが村人と協力して仕留める。融け始めた心の氷は、イノシシの肉を共に食らうという体験を経て完全になくなるのだ。額に汗して生きていくのに必要な食料を得ることができれば、それ以上何を望むのか。戦争に倦んだ兵士たちは軍服を脱ぎ村人と同じ作業着を身につけるシーンに、国家によって植えつけられた憎悪を維持してくことの難しさとばかばかしさを象徴させる。


やがてトンマッコルは米軍の爆撃対象になっていると知り、米韓兵までが村を守るために米軍と闘う決意をする。お仕着せのイデオロギーのためではなく、兵士たちは自分たちが守るべきものために銃を取るのだ。上からの命令ではなく、自らの良心に殉じる決意をした兵士たちの晴れやかな顔が、結局平和を守るためには武力に頼るしかないという二律背反を鮮やかに際立たせていた。


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