こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

明日へのチケット

otello2006-11-07

明日へのチケット


ポイント ★★★
DATE 06/11/2
THEATER シネアミューズ
監督 エルマンノ・オルミ/アッバス・キアロスタミ/ケン・ローチ
ナンバー 187
出演 カルロ・テッレ・ピアーネ/シルヴァーナ・ドゥ・サンティス/ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ/フィリッポ・トロジャーノ/マーティン・コムストン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


列車は、その目的地は変わらなくても、乗り合わせ人々の人生の進路を時に変えてしまう。ただの移動手段というだけではなく、そこで時間を共有したという偶然が人にインスピレーションを与える。小さな出来事が心の中で波紋のように広がり、やがて行動を促すきっかけとなる。3人の映画監督が列車の乗車券をテーマに描いたのは「自分を変える決心」。そしてその引き金となるものは日常のいたるところに潜んでいる。


老いた大学教授が、チケットをアレンジしてくれた中年の美しい秘書に恋心を抱く第1話。わがままな老婆に振り回される青年の姿を描く第2話。スコットランド人サポーターがアルバニア人家族の姿を見て難民問題と直面する第3話。ローマに向かう列車の中で起きた3つの出来事を通して、それぞれの登場人物の心の変化をつづる。


老教授が秘書との恋を夢見る第1話がしみじみとした味わいを持つ。秘書にしてみれば遠来の客の便宜を図るのは職務上当然のこと。その厚意を好意と勘違いされては迷惑だろうが、老い先短い教授は先走り、妄想まで描く。そんなときに憲官の横暴にさらされた貧しい家族を見て、ふとわれに返り彼らに同情するのだ。老いらくの恋に身をやつすより、ほかにすべきことがある。秘書へのラブメールを削除して貧しい家族の赤ちゃんに暖かいミルクを差し出した教授のすがすがしい表情に、未来への希望が凝縮されていた。


第2話は老婆のヒステリックな屁理屈は笑えたが、青年のほうに感情が乏しく、彼のうんざりした気持ちをもっと前面に出すべきだろう。第3話はサッカー好きのフツーの若者が移民問題に直面し、自分たちのできる範囲で彼らを助けようとする。かかわってしまった以上最後まで面倒を見るか、政治が解決することで自分たちには手におえないと見てみぬフリをするか。いちばん過激な青年が最後にいちばん人情を見せるというどんでん返しで、良心こそ人間を突き動かす原動力になるということを鮮やかに描いていた。


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