こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

テキサス・チェーンソー ビギニング

otello2006-11-14

テキサス・チェーンソー ビギニング TEXAS CHAINSAW MASSACRE:THE BEGINNING


ポイント ★★*
DATE 06/10/10
THEATER 角川ヘラルド
監督 ジョナサン・リーベスマン
ナンバー 172
出演 ジョルダーナ・ブリュースター/マット・ボーマー/テイラー・ハンドリー/アンドリュー・ブリニアースキー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


理性や倫理といったものが完全に欠如し、呪われた出生の男はただ殺すことだけに執念を燃やす。チェーンソーを振り回し哀れな犠牲者の胴体をぶった切る殺し方は、もはや残酷さを通り越してカタルシスさえ覚える。他人を哀れむという感情がない人間の前では弱きものの命など虫けらに等しく、相手を殺すことを躊躇すれば自らの死を招くという理論は戦場そのもの。そこにベトナム戦争たけなわという時代背景が影響してくるのかと思ったが、結局そんな政治や思想的背景など何もなく、B級ホラーに徹しているところが潔い。


若い男女4人組がヒッピーに追われ事故にあうが保安官に助けられる。しかし、この保安官は偽者で若者たちを拉致し、人里はなれた屋敷に連れ帰る。そこには元屠殺場で働いていた殺人鬼・トーマスが待ち受けていた。


おどろおどろしい効果音と音楽で脅しまくり、嫌悪に訴える演出はまさに教科書どおり。時に主観、時に客観とめまぐるしく変わるカメラのポジションで犠牲者がおかれている状況と心理状態を雄弁に語り、飛び散りしたたる血しぶきにも絶望が宿る。それでいて体を切り刻まれる恐怖よりも、話が通じない相手に理由もなく殺されそうになるという恐怖に重点を置いているために、あまりにも目を背けたくなるような描写にまで至っていない。そのあたり、観客の我慢の限界をふまえた演出が劇場映画としてギリギリの節度を保っている。


実話を元にした作品だそうだが、犯人の半生を追うことで事件の背後にある差別や貧困を浮かび上がらせるわけでもなく、主産業を失った街の荒廃を描いているわけでもない。社会的要因からも地理的にも陸の孤島のようで起きたような出来事を、アートに昇華しているわけでもない。観客の不快感を増幅させる事だけが映画の目的。この手の映画が好きなのは、いったいどういう人たちなのだろう。。。


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