こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ありがとう

otello2006-11-30

ありがとう

ポイント ★★*
DATE 06/11/25
THEATER ワーナーマイカルつきみ野
監督 万田邦敏
ナンバー 205
出演 赤井英和/田中好子/薬師丸ひろ子/尾野真千子
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


阪神・淡路大震災で全ての財産を失った男がたった一つ無傷だったゴルフクラブに天啓を受け、プロゴルファーを目指す。前半は被災地で交わされる人情の温かさ、後半は成功を夢見るスポコンと趣は全く変わるが、その根底に流れているのは「ありがとう」という感謝の気持ち。しかし、神戸の街の復興と、主人公の人生の復興という二つの物語を追ってしまったため、主題がぶれてしまった。その上、人物の描き方が非常に古くさく、例えば主人公がキャディと妻のうわさ話をしていると、妻がくしゃみをするシーンが挿入される。CGをふんだんに使っているのに70年代の映画を見ているようだった。


神戸でカメラ店を営む古市は震災に遭い家を失う。災害に強い街作りの計画を立て、反対派住民を説得していく。その後、仮設住宅を出た古市は家族の反対を押し切ってゴルフのプロテストを目指す。


あの大震災の怖さを再現した街並みがリアルだ。地震の揺れそのものよりも、その後に起きた火災で街が燃やし尽くされてがれきの山になる。それを何ヶ月もかけて人の手で取り除く。そこでは危険を顧みない活躍をして人命救助に奔走した人よりも、地道に汗を流すボランティアこそがヒーローとして描かれる。困っている人を見たときに自然と手を差し出す善意、それこそが人間が持っている本来の優しさであると主張は「ワールド・トレード・センター」のようだ。また、古市がプロゴルファーを目指すようになってからはひたすら体力トレーニングと素振りの日々。一度もグリーンで練習しないでテストに挑むのは、筋トレとロードワークばかりでスパーリングを全くせずに試合に臨む「ロッキー」のようだ。


主人公が震災で助かったことを「生かせてもらった」と感謝するのは良いが、その気持ちをいちいち大きな声にして表現されるとどこかの新興宗教のように思えてくる。「ありがとう」ということばは気持ちのいい響きを持っているが、挨拶代わりに使われるとその言葉の値打ちが少し下がったような気になってしまった。

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