こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

イカとクジラ

otello2006-12-05

イカとクジラ THE SQUID AND THE WHALE


ポイント ★★
DATE 06/11/6
THEATER ソニー
監督 ノア・バームバック
ナンバー 190
出演 ジェフ・ダニエルズ/ローラ・リニー/ジェス・アイゼンバーグ/オーウェン・クライン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


両親の離婚を淡々と受け入れるティーンエイジの兄弟。思春期の自分たちと同様、両親の心もしっかりと定まらないまま揺れ動くことを学んでいく。大人になっても悩み、迷い、その弱さをさらけ出すところは子供のときからさほど成長しない。人間の本質はいくつになっても変わらないことを息子たちの目を通して描く。しかし、わざわざ舞台を'86年のニューヨークに設定しているが、この時代なら「新しい家族のかたち」的なトピックにはなっただろうが、現在ではテーマの古臭さばかりが目立ってしまう。


売れない作家・バーナードは妻のショーンと離婚し、2人の息子・ウォルトとフランクは父母の家を行き交う日々を送るハメに。兄のウォルトは父に、弟のフランクは母に理解を示し、兄弟もバラバラになっていく。


木製ラケット、エアバッグのない車のステアリング、コードレスホンの大きな子機といった小物から、ボルグや「ブルー・ベルベット」といったセリフの端々まで、時代を感じさせる気配りに満ちている。だが、そこに懐かしさを感じないのはなぜだろう。ブルックリンのインテリ中流家庭という、ファッションには保守的な人種の服装や髪型のせいだろうか。それとも20年で流行が一周したのだろうか。いずれにせよ新鮮味のないアイデアをごまかすための方策にしか思えない。


十代の心と体のアンバランスはいつの時代でもあったし、親の不倫も珍しいことではない。だからこそ家族4人のうち、誰かに共感できるはずなのだが、この作品にはこれといったキャラクターが登場しない。ディケンズや「ギャツビー」「勝手にしやがれ」といったいかにもスノッブな固有名詞もウディ・アレン作品ほど効果的に使われておらず、笑えたのは唯一「変身」を「カフカ的」と評する場面だけ。俗物を軽蔑しながらもインテリをひけらかす、バーナードとウォルトのほうがよほど俗物的であることを徹底的に皮肉くらいのひねりはほしかった。


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