こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ファミリー

otello2006-12-07

ファミリー

ポイント ★★*
DATE 06/11/7
THEATER ソニー
監督 イ・ジョンチル
ナンバー 191
出演 スエ/チュ・ヒョン/パク・チビン/パク・ヒスン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


父と娘、肉親だからこそその愛憎は深く険しい。本当はとても愛しているのに、その気持ちをうまく表現できずに衝突し、行動で示そうとするとすれ違う。ふたりとも人に言えない心の傷を抱えているのに他人に対して素直になれず、不器用な生き方ばかりが遺伝しているという皮肉。それでも最後には、父娘そろって自分の守るべき大切なものは何かに気づくところがよく似ている。子にとって父親こそもっとも尊敬すべき存在で、父親はその気持ちに応える義務がある。いまだ韓国人の心に生き続ける儒教道徳が作品の根底を緩やかに流れ、物語を引き締める。


傷害罪で3年の服役を終えたジョンウンは父の元に帰るが、父の対応はそっけない。ジョンウンはかつての仲間のチンピラに貸しの清算を迫るが、逆にくすねたカネの返済を迫られる。やがてチンピラは父や弟の前にまで姿を見せ、ジョンウン父娘を追い詰めていく。


幼いジョンウンが父の片目をつぶしたせいで訪れた家庭の悲劇。そのけがのせいで父は警官をやめ酒に溺れ母に暴力を振るった。そんな父を嫌って非行に走ったジョンウン。真実を知ったジョンウンが父のひげを剃るシーン、長年にわたる誤解が氷解し柔らかな空気がにじみ出る。言葉を交わさなくても心が通じ合い、父娘は初めて素直な気持ちに戻る。映画はウエットな感情表現をことごとく拒否するが、この場面だけは寡黙な中にも子を思う本能と親に対する恩が饒舌な思念の噴水となってあふれ出ていた。


いまや家族の敵となったチンピラを排除するために、父は自分の残り少ない命を、娘は貞操を犠牲にしようとする。傷つき、汚れてしまった自分たちより、幼い弟だけはまっすぐに育ってほしい。父が最後にジョンウンの身代わりになってチンピラとの決着を付け、親が子を思う気持ちは子が親を思う気持ちより少しだけ強いことを証明する。親は子のために死ねるが、子は親のためには死なない。父親にとって、子供が小さいときの思い出は人生の宝物。失って初めて父の念を知るラストシーンに、万感の思いが込められていた。


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