こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

王の男

otello2006-12-08

王の男

ポイント ★★★
DATE 06/10/2
THEATER 角川ヘラルド
監督 イ・ジュンイク
ナンバー 166
出演 カム・ソウン/イ・ジュンギ/チョン・ジニョン/カン・ソンヨン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


愛、嫉妬、陰謀、人間の欲と情が支配する宮廷内で、その美しさで王をとりこにした男。女よりも美しく艶やかなその男は王だけでなくすべての男たちを魅了する。にもかかわらず冒頭のワンシーンを除いては性的な匂いがしないのはなぜだろう。男の運命を狂わせるほどの美貌を持っているのにあくまでその存在は中性的、むしろ男たちにとっては母性を感じさせる優しさゆえか。男に生まれながらも私生活でも女のような振る舞いで生きている主人公の、当時は最下層の身分であった芸人の悲しみが彼の切れ長の目からあふれ出る。


花形芸人・チャンセンと女形のコンギルは都で王を風刺した芝居を上演して捕らえられるが、王に気に入られて宮廷のお抱え芸人になる。特にコンギルは王の心を捕らえ、夜毎に呼び出されるようになり、王の女官・ノクスの恨みを買う。さらに重臣たちの悪行を風刺したため、命を狙われるハメになる。


綱渡りや芝居での、指先・足先まで神経が行き届いた所作の張り詰めた緊張感がスクリーンからほとばしる。熟練した芸人の技、そして技に対するプライド。チャンセンを演じたカム・ウソンは全身で芸人の魂を再現する。芸を見せて木戸銭を取る。しかし、たとえ相手が王といえども自分のポリシーに反した命令には従わない。身分は低くても決して権力に屈せず、目を焼かれてもその生き様を貫くチャンセンこそ、まさに男。そして16世紀初頭朝鮮のセットや衣装の色鮮やかさが彼をより際立たせる。


チャンセンとコンギルは幼馴染の芸人同士という以上の関係性は描かれていないが、果たして友情だけの間柄なのだろうか。2人が寝そべるシーンでは微妙な隙間が開いていたところを見ると、性的な関係がなさそうにも見えるが、一方で有力者や王の寵愛をうけるコンギルを見るチャンセンの目には嫉妬が宿っている。2人の絆の固さや女を抱くシーンがないところを見ると、デキていると考えるのが自然だが、それを示唆するシーンもない。この2人の間に横たわる激しい感情をもう少し見てみたかった。


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