こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

人生は奇跡の詩

otello2006-12-15

人生は奇跡の詩 LA TIGRE E LA NEVE


ポイント ★★*
DATE 06/12/11
THEATER シャンテ・シネ
監督 ロベルト・ベニーニ
ナンバー 216
出演 ニコレッタ・ブラスキ/ジャン・レノ/トム・ウェイツ/エミリア・フォックス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


愛する歓び、恋のときめき、そして人生のあらゆる出来事に意義を見つけ出し、それを言葉に変える。その表現はファンタジックなメタファーにあふれ、美しい夢を見ているようだ。主人公が大学で行う講義は、言葉に宿る魂こそが人の心を動かし感情を刺激するという詩の本質をを分りやすく解説する。しかし、映画自体は、技巧に走りすぎて読者を置き去りにする詩のごとく、観客をいたずらに混乱させるあざとい仕掛けに肩透かしを食ったような気がした。


詩人のアッティリオは夢の中でいつも理想の女性と結婚式を挙げている。ある日、友人のイラク人詩人・フアドから彼の伝記を書いているヴィットリアというライターを紹介されるが、彼女こそアッティリオが夢に見る女性。その後、戦時下のイラクに戻ったフアドからヴィットリアが重体に陥ったという知らせが入る。


夢に出てきた理想の女性というだけで、砲弾飛び交うバグダッドに潜入して、命がけで看病ができるものだろうか。それは運命を信じている詩人ならではの狂信的な感性なのか。ラストシーンで実はふたりが別居中の夫婦だったというオチを知った後なら、アッティリオの行動が純粋な愛にあったことは理解できる。しかし、アッティリオが2人の娘を迎えに行ったときに母親然としたおばさんが姿を見せたり、フアドの講演会でふたりが会ったときに初対面のような挨拶をしたりと、あえて観客をミスリードするようなシーンを挿入する。


小鳥やこうもり、木々や陽光といったものまで擬人化し、それら自然のものに宿る意思までも思いやり存在を定義する。アッティリオ=ロベルト・ベニーニのイマジネーションと森羅万象への愛は詩のような無限の広がりを感じるが、この映画の結末にはしてやられたという爽快感より残尿感のような不快さを覚えた。最初から妻の愛を必死で取り戻そうとする夫の物語でよかったのではないだろうか。


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