こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

犬神家の一族

otello2006-12-20

犬神家の一族

ポイント ★★*
DATE 06/12/16
THEATER 109グランベリモール
監督 市川
ナンバー 219
出演 石坂浩二/富司純子/松嶋菜々子/尾上菊之助
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


まっすぐに伸びた背筋、キリッとしたまなざし。冨司純子の凛としたたたずまいが映画を引き締め、これまで幾多のベテラン女優が演じてきた松子役の中でも最高のできばえをみせる。同じ原作を同じく市川監督が同じく石坂浩二主演で新たに撮るという、企画力の貧困さを露呈するような映画の中で彼女の好演が唯一の収穫だ。欲と情念、息子への偏愛、そして亡父の亡霊に操られて人倫を踏み外す老女の誇り高さと苦悩する弱さという表裏一体の感情を見事に表現していた。


莫大な遺産を残して死んだ犬神家の当主は、三人いる娘のそれぞれの男子のうちの1人が遠縁の珠世という娘と結婚する事を条件に財産を相続する事ができるという奇妙な遺言を残す。そして犬神家の中で奇妙な殺人事件が起きる。


'76年の作品と全く同じテイストの演出なのには驚かされる。かなり若作りして金田一耕助を演じた石坂浩二も贅肉が付いたとはいえほぼ昔のまま。有名なテーマ曲やタイトルクレジットのスタイルまで踏襲している。市川監督は大ヒットした自分の過去の映画をなぞるように現代によみがえらせる。そこに新しい解釈や思想を盛り込むわけでもなく、株を守るかのごとく旧作にこだわる。しかし、映像のセンスとしてはもはや古い。もしかしてそれが古いと気づかないような若い世代を狙って作っているのだろうか。


30年前に一度見たきりの前作のことは、テーマ曲と白マスクの男、金田一の走る姿以外はほとんど忘れていたが、この'06年版が進行するにれて徐々に記憶の底からよみがえってきた。もちろん何かが変わって期待を裏切ってくれるわけではなく、連続殺人を犯したのは松子でその息子と白マスクの男が事後処理をしていたという結末には変わりない。そこからは懐かしさも新鮮味も生まれない。ただ一瀬隆重というプロデューサーの強烈な自己満足だけが映画から匂い立つようだった。


↓メルマガ登録はこちらから↓