こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あるいは裏切りという名の犬

otello2006-12-22

あるいは裏切りという名の犬 36 QUAI DES ORFEVRES

ポイント ★★★★
DATE 06/12/18
THEATER 銀座テアトルシネマ
監督 オリヴィエ・マルシャル
ナンバー 221
出演 ダニエル・オートゥイユ/ジェラール・ドパルデュー/ヴァレリア・ゴリノ/アンドレ・デュソリエ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


犯人をめぐる部署間の暗闘、出世と手柄争い、そして陰謀と裏切り。警察という表社会を舞台にしているのに、まるで裏社会を描いているようなノワールな雰囲気が作品全体を覆う。ライバルの足を引っ張るだけでなく、時に密告すらいとわない。有能な警察官といえども一皮剥けば人間的な欲望丸出しの俗物。その原点が好きな女を奪われたという嫉妬に起因するところもきわめてリアル。あらゆるところに綿密に張り巡らされた伏線が効果的に使われ、運命は偶然ではなく必然であるという人間の業の深さを鮮明に描く。また、重火器を持った元傭兵の強盗団と数では勝っていても火力で劣る警官隊の銃撃戦は迫力満点だ。


パリ警察のヴリングスとクランはライバル同士。それぞれ部下を率い、強盗事件を追っていた。ある日、ヴリングスはタレ込み屋から情報を得て強盗団のアジトを襲撃するがクランの邪魔で主犯格を取り逃がす。そんな時、タレ込み屋がクランのネタ元を殺した現場にヴリングスがいたことが発覚する。


仲間同士の友情と仲間以外への排他意識。チームを組んで密偵し情報漏れを防ぐためには同じ警察官をも疑いの目で見なければならない。犯罪を防ぎ犯罪者を捕らえるという点では目的は同じでも、方法論がまったく違う二人の男たちが対照的だ。あくまで仲間を大切にするヴリングスと、上昇志向が強く自分に従う部下だけを大切にするクラン。必ずしも能力や人望だけで権力の階段を上れるわけではないという、実社会と同じ理屈がこの映画の中でもまかり通る。


結局、ヴリングスはクランの罠にはまり、妻を失った上に刑務所行きに。クランはパリ警察の長官に納まり権力を得る。妻の死の真相を知ったヴリングスは決着をつけるためにクランの下に現れるが、かつての部下の機転でまったく別の方法でクランを消す。絶望の中でひたすら憎しみの牙を研ぎ、7年という時を超えて一度受けた屈辱にはきちんと報復するという復讐の伝統が男達の心の中にきちんと生き続けている。久しぶりに骨太な「男の映画」に出会った。


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