こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヘンダーソン夫人の贈り物

otello2007-01-08

ヘンダーソン夫人の贈り物 MRS HENDERSON PRESENTS


ポイント ★★★*
DATE 07/1/4
THEATER BUNKAMURAル・シネマ
監督 スティーヴン・フリアーズ
ナンバー 2
出演 ジュディ・デンチ/ボブ・ホスキンス/ケリー・ライリー/ウィル・ヤング
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


細密に再現された第二次大戦直前のロンドンの街並みとファッションやヘアスタイルといった風俗、そしてなにより裸になった舞台女優たちの肉付きのよさ。ダンサーとしてシェイプアップした筋肉質なボディではなく、健康的なボリュームで女性的曲線が強調された胸や腰は若さがはちきれんばかりに輝いている。まだまだ性に関するモラルが厳しかった時代に、舞台の自由と斬新さを求めて権力と対峙した老婦人が、娯楽を必要とする人々のために立ち上がる勇気と行動力を上品なエスプリをまぶして描く筆致はあくまで軽い。それでいて戦争に息子を奪われた母の強い思いが伝わってくる。


莫大な遺産を相続したヘンダーソン夫人はロンドンのつぶれた劇場を買い取り、ヴァンダムという支配人を雇う。ヴァンダムは女性の裸を売り物にしたミュージカルで大成功。やがてドイツ軍の空襲が始まるが、戦地に赴く兵士のためにヘンダーソンは上演を続ける。


ヘンダーソンと劇場支配人ヴァンダムの長年連れ添った夫婦のような口げんかが軽妙なリズムを刻む。他愛のないことでいちいち口論するが心の底ではお互い信頼しあっている。そんなコンビが生み出すアートに名を借りた女性の裸は静止を条件に検閲基準ギリギリで上演を許可され、観客がいたずらで舞台に放ったネズミが受けると、今度はわざとそれをやるといったしたたかさも備えている。そのあたり、この映画を見に来た観客に対するサービスも忘れていない。


ヘンダーソン夫人は決して気まぐれに劇場を買ったわけではなく、裸を売り物にした出し物を上演したわけではないことがロンドンが空襲を受けたときに明らかになる。本物の女性の裸を見ることもなく第一次大戦で戦死した息子、そしてまた息子と同じ年頃の若者が戦争で命を散らそうとしている。反戦を声高に叫ばなくても、愛するものが戦場に行き、それを止めることが出来ない一般市民の気持ちを描くだけで十分に戦争はイヤだという気分にさせてくれる。


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