こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

あなたを忘れない

otello2007-01-26

あなたを忘れない


ポイント ★★*
DATE 07/1/9
THEATER ソニー
監督 花堂純次
ナンバー 4
出演 イ・テソン/マーキー/金子貴俊/竹中直人
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ありふれた日常、ありふれた出会い、ありふれた恋。自分の命を犠牲にしてまでも他人を助けようとした青年の人生は、その瞬間までありふれていた。新大久保駅でホームから線路に落ちた酔っ払いを助けようとして電車にはねられた韓国人留学生を、特別に正義感の強いヒーローとして描くのではなく、普通に礼儀正しく育てられた人間として描いているところがよい。体力は有り余っていても人生の目標を探して苦闘していたり、日本人の偏見に傷ついたり。それでも突然予想もしなかった出来事にとっさに善意に突き動かされて体が反応してしまう主人公。彼の人柄を温かな目で見つめるのはよいが、エピソードの語り口が少し幼稚だ。


大学生のスヒョンは除隊後東京に留学し、街頭で歌うユリと出会う。ユリは風間が率いるバンドでコンテストを目指しているがバンドは空中分解。一方、スヒョンとユリは名古屋から大阪まで自転車の旅に出る。


2年半の兵役で心身ともに鍛えられ芯の強い男になる韓国人と、自由の意味をはき違えて音楽を逃げ道にしている日本人。プロの道をあきらめろといわれた風間にスヒョンが聞かせる言葉は強烈だ。常に女性をリードし、愛するものを守ることが義務として叩き込まれている韓国の男スヒョンは、本当のやさしさは強くないと生まれないことを教えてくれる。それにしてもここで描かれている日本男児の腑抜けぶりはどうしたことか。平和ボケした日本人を相対的にバカっぽく見せることで、主人公を美化しないよう気を使っているのだろうが、すこし戯画化しすぎている。


線路で気を失っている男を助けようとしてホームから降りたスヒョンは、自分は助かる時間があったにもかかわらず、素手で電車を止めようとして他の2人と運命を共にする。なぜ逃げなかったかはわからない。ただ、一度行動を起こした以上、最後まで責任を取るというのが彼の流儀なのだろう。そんなスヒョンの善意と勇気だけは心にしみる。


↓メルマガ登録はこちらから↓