こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

松ヶ根乱射事件

otello2007-02-26

松ヶ根乱射事件


ポイント ★★★*
DATE 07/1/26
THEATER メディアボックス
監督 山下淳弘
ナンバー 17
出演 新井浩文/山中崇/木村祐一/川越美和
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


こたつとみかんに象徴される退屈で怠惰な日常。そのまま代わり映えもなくただ年月だけを重ねていくような田舎町はそれなりに調和を保っているのに、ちょっとした事件から歯車が狂い始めまじめに生きてきた人間の精神に微妙な影響を及ぼしていく。マイナスの波動が互いに連鎖しあい、それがやがて大きなうねりに発展したときにどういう行動に出るか。シニカルな視点の奥に秘められた人間を観察する温かな目が、時にコミカルな効果を醸し出し、ダメ人間ですら愛らしく映る。


冬の寒さが厳しい長野の小さな街の青年・光は赤い服の女をひき逃げする。彼女はヤクザの情夫と共に光を脅し、犯罪に巻き込む。光の双子の兄弟・光太郎は警官をしながらそんな光の変化に気づくが、身の回りでおきる些事に振り回されて光と向き合う余裕はない。光は徐々に追い詰められ、家の売上金に手を出してしまう。


中途半端な光だけでなく、父もまた浮気相手の家に居候した挙句、その娘を妊娠させてしまうというだらしなさ。知的障害を持つその娘は誰にでも体を許すことで有名で、この村の男たちはほとんど「兄弟」。実は婚約者がいる光太郎も一度ならず彼女の世話になっている。この映画でいちばんまともな男のはずの光太郎ですら、警官という顔の下はごく普通の若者なのだ。彼らは、よそから流れてきた海千山千のヤクザものに歯向かうすべもない。しかし、光を脅すヤクザもまたせっかく手に入れた金塊をもてあまし、光から小金を巻き上げることしかできないでいる。


役立たずの男たちとは対照的に、しっかりと地に足の着いた女たち。光たちの姉は牧場経営を、赤い服の女はとぼけた口の利き方ながらもちゃんと自分の意思を押し通すし、知的障害の娘ですら子を産んで母の自覚を持つ。難しいことを考えないで女に任せておけばなんとなくうまくいく。そういう村の掟に気づいた光太郎は、そのままずるずるそんな人生を送ることに恐怖を感じるが、結局は空き地に向かって引き金を引くことぐらいしかできない。男と女の基本的な生活能力の差、そして女の強さばかり際立つ作品だった。


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