こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

さくらん

otello2007-02-28

さくらん


ポイント ★★
DATE 07/2/24
THEATER 109グランベリーモール
監督 蜷川実花
ナンバー 38
出演 土屋アンナ/椎名桔平/木村佳乃/成宮寛貴
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


金魚、着物、ちょうちん、布団、口紅そして血。人工着色料のようなどぎついまでの赤のイメージは、この物語が作り物の世界の出来事であることを強調する。カネを持った男たちが一時の享楽を求めてやってくる。女たちはそんな男たちに夢と体を売る。そこでの愛は所詮張りぼての舞台の表側でしかない。そして裏側で繰り広げられる女同士の葛藤と真実の愛こそが、吉原もまた人間の営みが息づく街であることを再確認させる。しかし、そこで語られるエピソードは脈絡なく、ヒロインに一貫した主張があるわけでもなく、人間ドラマとしては稚拙だ。


吉原の遊郭に売られてきた気の強い少女はきよ葉と名づけられ、売れっ子花魁の見習いになる。やがてその気の強さと美しさから人気が出て、日暮と改名した後吉原一の花魁となる。


花魁が大店の主人に身請けされるサクセスストーリーや先輩花魁の純愛劇といったものは脇に置き、ヒロインはひたすら自分の気分のままに生きる。どうせ逃げても大して変わらないのなら女を売り物にしていれば衣食住に困らないだけましと、きよ葉は吉原で生きる決心をする。愛した男に裏切られた後は、むしろその生活を楽しむよう。真の愛や向上心があるわけでもない、こんな気まぐれでわがままな遊女がいてもいい。だが、それでは金魚鉢の中で生きる金魚と同じではないか。


結局、いよいよ身請けの日というときに、咲かぬ桜が花をつけたことで、日暮は置屋の使用人とともに足抜けする。しかし、日ごろの彼女に強烈な自由への渇望があったわけでもなく、幼いころの決心も長年の吉原暮らしで薄れていたはず。せっかく晴れて武家の妻として遊郭を卒業できるのに、より不自由で貧しい逃亡生活を選ぶ理由が極めて希薄だ。もちろんそれは「自分の意思で自分の人生を生きる」という日暮の決意の行動であることは明白なのだが、いかにも無理やりな設定で飛躍が過ぎる。まあ、結局この花魁には遊郭の客だけでなく映画を見に来た客も振り回されただけということか。。。


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