こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

otello2007-03-02


ポイント ★*
DATE 06/11/10
THEATER スペース汐留
監督 黒沢清
ナンバー 193
出演 役所広司/小西真奈美/伊原剛志/葉月里緒奈
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


赤い服を着た幽霊は失われた街の記憶、地震によって埋立地に染み出す海水の水溜りは失われた街の涙。急ピッチで姿を変えていく東京湾埋立地、かつてそこにあったすべてのものが念となって、生きているものにメッセージを送る。それは忘れられ、誰も自分を思い出してくれないという寂しさ。しかし、まばたきひとつしない底なし沼のような暗黒をたたえた黒い瞳に見つめられると、その念は恐怖しか呼び起こさない。幽霊の憎悪の根源が非常にあいまいな上、主人公の記憶まで錯綜してしまって、最後には支離滅裂な結末が待っている。


東京湾埋立地で身元不明の女の他殺死体が発見される。その後同様の手口で犯行が件繰り返されるが、犯人にも被害者にも共通点はない。捜査に当たった刑事・吉岡はそのころから赤い服を着た幽霊を見るようになる。


連続殺人の犯人たちはかつて運河を渡る船で通勤していたという過去があり、運河沿いの廃屋に住む幽霊に顔を覚えられていたというくだらない理由は何なんだ。そもそもなぜ死んでから何年も経っているのに、なぜ今頃になって偶然船で通勤していた人々に殺人を犯させるのだ。いくら幽霊でもこんな逆恨みが許されていいはずはない。また冒頭の殺人事件で吉岡似の犯人の後姿を見せたうえに被害者にまで赤い服を着せて、吉岡が精神を病んでいるようなシーンまで挿入して彼の別人格が殺人を犯したように観客をミスリードしようとするあざとさ。現場に落ちていたコートのボタンとボタンがひとつ取れた吉岡のコートまで挿入する。しかし、いまどき小学生でもこんなアホな仕掛けにだまされて納得するほどナイーブではない。


最後には、なぜか吉岡の相棒の刑事が幽霊に連れ去られるし、吉岡の恋人も実は幽霊だったという、もはや失笑を漏らしてしまうような苦しいオチ。古い埋立地自体が巨大なミステリーゾーンで、そこで起きたことに関していちいち理屈や整合性を考えてはいけない、というのがこの映画の主張なのだろうか。


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