こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

蒼き狼

otello2007-03-07

蒼き狼 地果て海尽きるまで


ポイント ★*
DATE 07/2/4
THEATER 109シネマズ港北
監督 澤井信一郎
ナンバー 43
出演 反町隆史/菊川怜/若村麻由美/袴田吉彦
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


どこまでも広がる草原と緑の地平線、そして戦場を埋め尽くすおびただしい騎馬兵たち。その一方で、薄っぺらな俳優の演技で綴られる世界史上の英雄の早送りのような人生。壮大なスケールの映像と空疎な中身が一本の映画の中に同居するという、いかにも角川春樹の映画だ。オールロケの人海戦術で今までの日本映画にはない臨場感を出そうとしているのはわかるのだが、肝心のスタッフにその規模に見合うだけの技術を持ったものがいなかったのだろう、CGを見ているほうがましという気にさせられる。


略奪された他部族の母から生まれたテムジンは、族長である父亡き後家族と共に放浪するが、その人格知力から次々と勢力を伸ばしていく。やがてボルテという美しい娘を妻にするが、彼女もまた略奪され、奪い返したときには妊娠していた。


なぜもっとモンゴルの大自然を美しく撮らないのだろうか。草原の緑、大空や水の青、家畜や土の茶色、そして蒙古軍の衣装など、本来の鮮やかな色彩をフィルムに収めるだけで映画としてのクオリティは格段に向上したはず。テムジンの人生を追うのなら、定住生活を拒み、常に自然環境の恵みと脅威の中で生きてきた遊牧民のメンタリティをきちんと描くべきだろう。それには彼らが目にした光や影、四季の移ろいがいかに壮大だったかを描くのは必定。史上最大の帝国を築いたチンギス・ハーンですら、悠久の大地の前では小さな存在に過ぎないというくらいの天の視点が欲しかった。


テムジン自身、メルキトという部族の血、さらに息子にもメルキトの血が流れている。つまり、モンゴル族に滅ぼされたメルキトの生き残りであるテムジンの母・ホエルンの復讐譚という見方もできるのだが、彼女の視点もいつの間にかあやふやになる。一方、テムジンがどんな策略を用いて周辺部族を統合したとか、ジャムカとの運命をかけた合戦でどんな奇策を用いたとか、見るものがあっと驚くようなアイデアがないのは寂しい。ただ、馬上で矢を射、刀を振り回すだけの合戦シーンなど、いくら多勢のエキストラを集めてももはや退屈でしかない。


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