こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

今宵、フィッツジェラルド劇場で

otello2007-03-09

今宵、フィッツジェラルド劇場で A PRAIRIE HOME COMPANION


ポイント ★★★
DATE 07/3/6
THEATER BUNKAMURAル・シネマ
監督 ロバート・アルトマン
ナンバー 44
出演 メリル・ストリープ/ケビン・クライン/ヴァージニア・マドセン/ギャリソン・キーラー
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


何事にも終わりがある。人生の大半をすごしてきた居場所の最期を見届け、自分に対しても踏ん切りをつけなくてはいけない。時は流れ、人は入れ替わっていく瞬間を、あるものは淡々と受け入れ、あるものは感傷に浸る。それは決して劇的なものではない。ただ、もはや変えようのない運命ならば、その時までプロとして生きようとする歌手や演奏家たちの誇りだけが最後の輝きを見せる。だれもが潮時だと思っているが、心にある寂しさを口にしないところが余計に哀愁を誘う。


ミネソタ州のラジオ局の長年続いた公開ライブ番組が劇場の閉鎖で打ち切りになる。歌手たちは最後の夜を惜しみつつ、精一杯自分たちの歌を歌う。そんな時、警備主任のノワールの元に、白いコートを着た謎めいた女が現れる。


映画は劇場の舞台と楽屋に出入りする人間模様を克明に描く。もうここで歌うことはない、この舞台に上がることはない、そういう思いが皆の胸に去来してる。そんな中、最後の舞台を湿っぽくさせないために「来週も同じ時間に」という司会者の言葉が泣かせる。これで終わりと分かっていても、もしかしたらという思い。そのあたりの登場人物たちの感情の抑えかたが、みな経験を積んだ大人という感じがして、洗練された語り口になっている。


白いコートの謎の女は、自ら「天使」と名乗り、ノワールに教訓めいた言葉を残したり老歌手の臨終に立ち会ったりと、一見奇跡を起こしてくれそう。実際、劇場をリストラした男を交通事故に遭わせて葬る。しかし、結局何も変わらず劇場は解体される。関係者はいやでも新しい世界に放り出され、そこで生きていかなければならない。後にダイナーに集まったノワールと歌手たちをやさしく見守る天使。そこには思い通りにいかないことが多くても、生きていれば希望が見えてくるという、ロバート・アルトマン監督の人生への肯定的な思いが映像にあふれていた。


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