こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ブラックブック

otello2007-03-29

ブラックブック ZWARTBOEK


ポイント ★★★★
DATE 07/2/5
THEATER 東芝エンタテインメント
監督 ポール・バーホーベン
ナンバー 24
出演 カリス・ファン・ハウデン/トム・ホフマン/セバスチャン・ゴッホ/ハリナ・ライン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


誰もが死と背中合わせで生きていた時代、密告・裏取引が横行するなかで誰が信用できるのかを見極めることの困難。ドイツ軍占領下のオランダで、生き残るためにぎりぎりのところで選択を迫られる人々の姿を緊張感たっぷりに描く。それはハリウッド映画のような、悪のドイツと戦う勇敢なレジスタンスという単純な構図からは程遠く、実際に占領された経験を持つ民族だけが描き得るリアリティにあふれている。直接の抵抗活動だけでなく、禁じられた愛、スパイ映画のスリルと裏切り者探しのミステリーまで、盛りだくさんな内容で最後まで気が抜けない。


農家の屋根裏にかくまわれていたユダヤ人のラヘルは逃亡中に家族全員を殺され、オランダ人レジスタンスに救われる。ラヘルは髪をブロンドに染めてエリスというオランダ人になりすまし、ドイツ軍将校・ムンツェに近づいて情報をレジスタンスに流す。


レジスタンスにもドイツ軍にも内部に敵と通じる者を内包する複雑な人間関係。たとえ敵同士であっても利害が一致すれば手を結び、仲間を平気で売るというエゴ丸出しの人間模様。比較的悪相の人間が悪人を演じているドイツ軍と違い、レジスタンス側はヒロインのエリス以外は誰もが一癖ありそうな面構え。しかもその偽装は巧妙で、味方=観客も見抜けない。ムンツェを愛してしまったエリスにすべての汚名を着せて自分は逃亡を図るなど、大儀よりも実利、名誉よりも自分の命を大切にしようとする人間の描写は巧妙だ。


結局、裕福なユダヤ人を罠にかけ、ドイツ軍が財産を奪い、裏切り者はその分け前を得る代わりに新たにユダヤ人をだましていたことが判明する。医師のハンスだけがなぜ撃たれないのかとか、クロロフォルムが効かない理由とか、インシュリンとチョコレートの関係とか、さりげないエピソードの端々にちりばめられたパズルの断片が、最後に生きてくるというよく練られた脚本。それもいかにも伏線という配置ではなく巧妙に仕掛けられた時限爆弾のようだ。感情を強調するような耳障りな音楽さえなければ、もっと作品の精度が上がっただろう。


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