こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

黒い眼のオペラ

otello2007-04-02

黒い眼のオペラ 黒眼圏

ポイント ★*
DATE 07/2/2
THEATER メディアボックス
監督 ツァイ・ミンリャン
ナンバー 22
出演 リー・カンション/チェン・シャンチー/ノーマン・アトン/パーリー・チュア
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


極限までセリフを排除した寡黙な物語は退屈極まりなく、固定カメラに収められたしっとりと落ち着いた長まわしのショットは強烈な眠気を誘う。喧騒渦巻く大都会で、孤独になることを恐れるあまり人肌のぬくもりを求める人々の姿を描こうという試みは、あまりにも映画としての装飾を抑えすぎたために素人が撮ったビデオ映像のような趣。そこには観客に何かを訴えたいという意欲はなく、不器用な表現主義だけが先走る。静謐が饒舌さに昇華されずに言葉足らずに終わっている。


クアラルンプールで行き倒れたシャオカンを助けたラワンは彼を親切に看病し、同じベッドで寝る。一方、小さな食堂で働くウエイトレスのシャンチーは寝たきりの少年を看病している。やがてシャオカンとシャンチーはお互い惹かれあっていく。


外国からの不法滞在者であるシャオカンは、身分証もなく社会からはみ出た存在。しかしここでは本来孤独をかみしめているべきシャオカンより、この土地に住むラワンやシャンチーのほうが心に抱える闇は大きい。それはもはや人生に希望を持てなくなったあきらめからくるのだろうか。特に屋根裏部屋に住み給仕と介護に明け暮れるシャンチーにとって、シャオカンはカネも住むところもない代わりに時間と自由だけは余りあるほど持つ存在。自分の満たされぬ思いを彼に託すという方法でしか、現実を忘れさせてくれる術はない。よりどころがない生活をする男とよりどころのない心を持つ女が惹かれあう姿は切なくも温かい。


マットレスを持ってラワンのもとを出たシャオカンは巨大な廃墟の中に寝床を定める。インドネシアからの煤煙が街を覆い、人々はマスクなしでは呼吸できない。そんな中、シャオカンとシャンチーははじめてお互いの肉体をむさぼりあう。しかし、キスをしようとマスクをはずすと、急激に咳き込む。うまくいきそうになるとタイミングが合わない、そんな不器用な生き方しかできないふたりの思い通りにならない人生を象徴する。そして最後にはラワンも加わって3人でマットレスに横になる。息苦しくなりそうな環境でもひとりになるよりはいい、そんな登場人物の心境を象徴するラストシーンだが、ここに至るまでの山場の乏しい展開は劇映画としては冗長すぎる。


↓メルマガ登録はこちらから↓