こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クィーン

otello2007-04-13

クィーン THE QUEEN


ポイント ★★★★*
DATE 07/3/9
THEATER 東宝
監督 スティーブン・フリアーズ
ナンバー 46
出演 ヘレン・ミレン/マイケル・シーン/ジェイムズ・クロムウェル/アレックス・ジェニングス
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


伝統に反旗を翻して自由に振舞ったダイアナ元妃と、彼女をとことん毛嫌いする女王。悲劇の事故からまだ10年も経っておらず、登場人物はほとんどまだ存命中。ところが、絶対に口を割らないような当事者しか知らないような会話まで、その場で見聞きしてきたようなリアリティを再現している脚本は見事だ。女王の寝室での会話や首相との会談など、創作と分かっていても事実のように思えてしまう。虚構と現実を巧みに織り交ぜ、まるで上質のルポを見ているような臨場感と緊張感が最後まで途切れない。


ダイアナ元妃がパリで事故死、その知らせを聞いたエリザベス女王は「王室とは無関係」と黙殺する。一方、ブレア首相はいち早く追悼のコメントを出す。やがて国民の怒りは冷たい女王の態度に向き、女王はダイアナ元妃がいかに国民に人気があったかを思い知る。


国王として国儀を取り仕切る表の顔ではなく、家族の体面に泥を塗った不肖のヨメに対する苦々しい思いを口にし、態度に表す女王は、まさしく一人のおばあさんにしか過ぎない。一方で、家長としての威厳も失わないように気を使わなければならない。自分に選挙権がないことを嘆く冒頭のシーンに、特権を享受しながら最低限の権利すらないという王族にいる者しか味わえない孤独が凝縮されている。だからこそ王室から離れて心のままに生きるダイアナがうらやましい。女王のダイアナへの憎しみは、自分が絶対に手に入れることができなかった自由への渇望の裏返しなのだ。


映画はダイアナの死から葬儀までを時間軸に沿って描く。その過程でダイアナの死を悼む圧倒的な世界中の声を耳にする女王は、道路を埋め尽くさんばかりの献花を前に、「開かれた王室」はダイアナが自らの命をもって強引にこじ開けたということに気づく。王室のあるべき姿を模索するエリザベス女王の苦悩を描くことで、晩年スキャンダルまみれだったダイアナ元妃が、自分の弱い面もさらけ出すことでその人間らしさが人々に愛されていたことを鮮明にしている。


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