こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ボンボン

otello2007-04-23

ボンボン EL PERRO


ポイント ★★*
DATE 07/4/18
THEATER シネカノン有楽町
監督 カルロス・ソリン
ナンバー 76
出演 ファン・ビジェガス/ワルテル・ドナード/マリエラ・ディアス/ロサ・ヴァルセッキ
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人生、他人との係わり合いで何とでも変わっていく。失うものが何もなくなればかえって思い切った行動を取れる。困っている人を助ければ、自分にも救いの手が差しのべられる。とりあえず行動してみる、それが運命を切り開く上で一番大切なこと。どこまでも抜けるようなアルゼンチンの青空の下、突然の不運に見舞われた孤独な男が再び希望を持てるようになるまでを乾いた筆致で描く。そこで徹底しているのは自分の人生なのに自分をどこか客観的に見ているような主人公の視点。諦観とも遠慮とも取れるその姿勢は、押し付けがましさはない分物足りなさを感じる。


ガソリンスタンドをクビになったファンは偶然助けた女性から血統書つきの犬をもらい、ボンボンと名づける。ある日、ボンボンを見た愛犬家が素質を見抜き、ワルテルというトレーナーを紹介、ドッグショーに出場すると見事な成績を収める。


失業や娘一家との軋轢を嘆くわけでもなく、ボンボンを得たという幸運に大喜びするわけでもない。52歳のファンは人生の酸いも甘いも知っているのか、環境の変化にはほとんど動じない。それでも安定した仕事を持ちおそらく平穏無事だった生活が、失業と共に一変したことで運命の流れが変わったことは分かっている。その根底にある他人を信じてみようという彼の素直な心と、そんな彼を見守る周りの人々の小さな善意が温かい。


ボンボンを種犬にしてひと儲けをたくらむファンとワルテルだったが、繁殖用のメスに対しボンボンが性欲を持たず期待は儚く終わる。ラスト、人間にあてがわれたメスではなく野良犬と交尾するボンボンに、カネに縛られる人生はイヤだというファンの主張が込められている。ただ、ファンとボンボンの友情をあえて強調しないことで「感動モノ」とは一線を画しているが、それでもほとんど同じ表情のファンと仏頂面のボンボンの心の交流を少しは描いて欲しかった。


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