こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

神童

otello2007-04-24

神童

ポイント ★★★
DATE 07/1/25
THEATER 映画美学校
監督 萩生田宏治
ナンバー 16
出演 成海璃子/松山ケンイチ/手塚理美/甲本雅裕
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


彼女が奏でる音楽は優雅にしてエモーショナル、鍵盤を自在に操る指先には神が宿り耳にする者を魅了する。そんな、神童と呼ばれた少女が自分の才能を持て余しながらも、選ばれし者の使命を自覚する。超絶的な技巧で心に荒波を立てたかと思うと、一転して調和と平安をもたらすような旋律に変わる。まるで観客の聴覚をもてあそぶかのようなメロディに、温湿地に引きずり込まれるような快感を覚える。


音大を目指して浪人中のワオはうたという少女に出会い、彼女からピアノのレッスンを受けるようになる。おかげで試験は合格するが早くも壁にぶち当たり、一方のうたも練習に身が入らない日々を送る。そんな時、世界的なピアニストがうたの才能を見抜く。


ピアニストとしての技量の発達に心の成長がついていけない。母親をはじめ周囲の期待に答えようとする反面、中学生という多感な少女は未熟な精神を持て余す。しかしそれは決して苦悩やグチという形ではなく、暴力的な表現をとる。そのあたり、ワオだけには素顔を見せるうたという難しい役を成海璃子は飄々と演じる。一方で、天才の対の凡人として物語に添えられるワオのこそ彼女の代弁者であらねばならないのだが、あくまで添え物扱いなのが物足りない。


ピアノ協奏曲第20番、「アマデウス」のエンドクレジットに用いられたこの曲こそ天才の試金石。誰もが知っているがゆえに、耳の肥えた聴衆を納得させる演奏をしなければならない。うたはこの試練を見事に乗り越え神の領域に達する。一方でワオは彼女の人格的な理解者以上の存在にはなりえず、彼に許されるのはうたとの連弾のみ。ワオの視点でうたを描いていればもっと作品の輪郭がはっきりしただろう。ラスト、ピアノの墓場に捨てられた壊れかけのピアノに命を吹き込むうたとワオの姿に、神に選ばれたものの祝福と選ばれなかったものの諦念が透けて見えるようだった。ただ、めくるめくようなピアノの旋律を俳優本人が演奏していないのはとても残念だ。


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