こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハンニバル・ライジング

otello2007-04-25

ハンニバル・ライジング HANNIBAL RISING

ポイント ★★
DATE 07/4/21
THEATER 109シネマズ港北
監督 ピーター・ウェーバー
ナンバー 79
出演 ギャスパー・ウリエル/コン・リー/リス・エバンス/ケビン・マクキッド
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人肉の味。一度口にしたものすべての運命を狂わせ、容赦なく死に追いやる。ハンニバル・レクターだけはその運命に抗い、自ら死を送り届ける側に人間になる。超人的な頭脳と体力を身につけたハンニバルは、その代わりに人間としての心を失い、さらなる人肉の味を求めて殺人を続ける悪魔となる。しかし、いかにその動機が復讐とはいえ、ハンニバルの活躍は安手のスーパーヒーローもの以下。なぜたった一人で連続殺人が可能なのかはまったく説明されず、周りの環境は常にハンニバルの都合のいいように捻じ曲げられる。


1944年独ソ戦の最中、ハンニバルは戦火を逃れて一家で疎開、両親は死に妹と2人生き残るが、独軍に協力する地元兵に囚われて妹を食べられるという悲惨な経験をする。戦後、成長したハンニバルはフランスの親戚の下に身を寄せ、妹の復讐を図る。


想像を絶するハンニバルの原体験が彼を狂わすが、感情を超越した意志の力で、戦後ギャングとなった妹の仇を血祭りに上げていくという計画を着実に遂行していく。そのの過程で自分の姿を敵にさらし、行動を筒抜けにしてわざわざ復讐に戻ってきたことを知らせるという間抜けぶり。にもかかわらず元兵士である敵を簡単に捕まえてしまうという手際のよさ。ハンニバル人智をはるかに超えた存在なのはよくわかるが、あれほどまでに無防備ならば殺すチャンスはいくらでもあるだろう。


アンソニー・ホプキンスの演じる完成されたハンニバルならば、どれだけ常識はずれの力を持っていても疑問には感じない。だが、この映画では妹の事件でいきなりダークサイドの王となるのだ。多少、おばの援助はあったものの、ほとんどすべて自分ひとりで決め、実行する。そこには迷いや恐れといった人間らしい心の動きは一切ない。若き日のハンニバルが、いかにして自らの悪を信念にまで昇華させたかを仔細に描かないと、これでは「誕生秘話」を作る意味がないではないか。。。


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