こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

歌謡曲だよ、人生は

otello2007-05-15

歌謡曲だよ、人生は


ポイント ★★*
DATE 07/2/28
THEATER シネスイッチ銀座
監督 磯村一路/七宇幸久/タナカ・T/片岡英子/宮島竜治/蛭子能収/水谷俊之/三原光尋/矢口史請/おさだたつや
ナンバー 41
出演
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


昭和40年代前後を彩った歌謡曲の数々。懐かしさについつい口ずさみたくなる歌もあれば、ぜんぜん知らない曲もある。しかし、これらの歌に何らかの思い出や思い入れがあるのは、もはや還暦に近い年齢層なのではないだろうか。若い脚本家や演出家は下手なことはできない。結果的に歌詞に込められた思いを言葉少なに表現するという、カラオケのバックに流れるような映像のものが多くなっている。歌が主で映像は従という関係ではやはり映画としては物足りなく、短かい上映時間という制約の中できちんと物語の起承転結が練られていた3本は素晴らしかった。


往年のヒット歌謡曲をテーマに10人の監督が撮った10本の作品。物語に凝ったもの、ディテールに凝ったもの、ノスタルジーを強調するもの、意外性で勝負するものとさまざま。ただ、皆まじめすぎるのかぶっ飛んだ感性を見せてくれるのは蛭子能収だけだった。


「いとしのマックス」は飛び散る血、煮えたぎる怒り、ほとんどナンセンスな暴力の前にカメラは躍動し、作品の鼓動は高らかに脈打つ。いじめられっこOLに好意を寄せる会社員が彼女をいじめる同僚を次々に血祭りに上げていく様は、美しさすら感じる。不条理マンガを得意とする蛭子監督だけに、話の落としどころもツボにはまっていた。また、若いころの恋人とそっくりな女と同棲している初老の男を描いた「小指の思い出」は、2人の関係をあれこれ想像させながら、最後にこの男の強烈な女への愛が感じられて秀逸だった。


そして最大の収穫は「女のみち」。高校生がサウナに入っているとヤクザが入ってきて「女のみち」を歌いだすが、歌詞を忘れてしまう。必死に続きを思い出そうとする2人の奮闘ぶりがおかしくも切ない。それはヤクザの半生を振り返るものであり、歌に込められた彼の情婦の気持ちを慮るものなのだ。人生と人情を真正面からとらえ、笑いをまぶす。完成された職人芸のようだった。


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