こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アパートメント

otello2007-05-22

アパートメント


ポイント ★*
DATE 07/4/13
THEATER 映画美学校
監督 アン・ビョンギ
ナンバー 72
出演 コ・ソヨン/カン・ソンジン/チャン・ヒジン/パク・ハソン
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


他人の私生活の覗き見、女装の二重人格者、コキコキと首の骨を鳴らしながら迫りくる女の幽霊…。ヒッチコックのスリラーと和製ホラーの話題作のエッセンスを盗んでミステリー仕立てにするという安易な設定は新鮮味に乏しい。怨念に対する描きこみも浅く、行き当たりばったりに人を殺しているとしか思えない。ブルーを強調した沈んだ映像はさめざめとした印象を与えるが、それは死のイメージからはほど遠く、人間の感情の奥底に潜む悪意が見えるわけでもない。ただ過去の作品から中途半端にアイデアを集めただけで、監督のクリエイティビティをまったく感じなかった。


キャリアウーマンのセジンは、赤い服の女の自殺に巻き込まれそうになる。そのころから彼女のマンションの向かいに立つ高層アパートで不審死が続出、事件の鍵となる車椅子の少女・ユヨンがセジンに近づいてくる。


思わせぶりなシーンがやたら多いが、ほとんど全体のストーリーに絡んでこない。たとえば地下鉄に飛び込む女や、事件を追う刑事、セジンの部屋にたびたび出てくる正体不明の幽霊、9時56分の停電。そもそも事件は向かいのアパートで起きているのなら、セジンのマンションの住人も目撃しているはず。仕事の重責に耐えかねたセジンの妄想とも思えない。現実と妄想の境目をあいまいにして、つじつまの合わないことはセジンの脳内現象と言い訳するつもりなのだろうか。


結局、連続不審死の原因は、両親をなくしたユヨンをアパートの住人たちが助けているうちにいつしかユヨンに対する気持ちが変わっていったという、訳の分からない理由。その過程でひきこもり女装男が暴れたり、女子高生の記憶が途切れたりと忙しい。しかし、どのファクターも一本の線としてつながっているわけではなく、ひきこもり男に殺された青年以外、自殺原因としては意味不明だ。そして、最後にはセジンまで飛び降り自殺してしまう。これで一件落着ということは、やはりこの映画に描かれたあまりにも脈絡がないエピソードは、ストレスに苛まれたセジンの心が見た幻影という解釈が妥当なのだろう。そんなものを見せられた観客はたまらんが。。。


↓メルマガ登録はこちらから↓