こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パッチギ! LOVE&PEACE

otello2007-05-23

パッチギ! LOVE&PEACE


ポイント ★*
DATE 07/5/19
THEATER 109GM
監督 井筒和幸
ナンバー 100
出演 井坂俊哉/西島秀俊/中村ゆり/藤井隆
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


在日コリアンゆえ、いわれなき差別を受けなければならないことに対する怒りを糧に、力強く生きていこうとするヒロインの凛とした美しさ。対照的に彼女の兄の短慮で粗暴なこと。戦争を忌避した父がいたからこそ今の自分があると彼女は気丈に「反戦宣言」しているのに、集団で乱闘するしか能がない男たち。一方では反戦を叫ぶのに、一方は暴力を肯定するという二枚舌のような作品だ。確かに戦争と比べれば若者の乱闘騒ぎなど取るに足りないものだろう。しかし、怒りを表現する手段としてバットや灰皿を振り回して相手に重傷を負わせることを積極的に描くのはどういう神経なのだろう。せっかく芸能界における在日のアイデンティティという最近になってやっと解禁されたタブーを扱っているのに、ならず者がぶち壊しているようだ。


焼肉屋で働く美しい娘・キョンジャはスカウトされて芸能界に入る。出自を隠して人気を得、やがて特攻隊映画のヒロインに抜擢される。しかし、彼女の父はかつて日本の軍属から脱走した過去があり、キョンジャは戦争を賛美する内容に懐疑的だった。


どうしてもっと登場人物を整理して物語に統一性をもたせないのだろうか。キョンジャのエピソードだけで十分に在日コリアンが味わってきた屈辱の歴史が伝わってくるのに、彼女の兄・アンソンが出てきては物語をかき回す。兄弟愛で涙を誘うために難病の弟という設定はあざとさがミエミエだし、藤井隆扮する佐藤も二つの民族の架け橋になるわけでもなく、ただキョンジャを遠くから見守るだけでは何のために出てきたのかさっぱりわからない。そのあたりの展開がのろく、退屈な回り道ばかりしているようだ。


いよいよ映画の完成披露試写の席で、キョンジャは自分の出演映画の愛国精神に疑問をぶつける。このシーンこそ最大の見せ場なのに、またしても大乱闘で映画は混沌となる。感傷よりも感情の爆発、言葉よりも腕力という、あえて観客の期待を裏切ろうという仕掛けには監督のエネルギーを感じるが、空回りしている感は拭いきれない。


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