こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

しゃべれども しゃべれども

otello2007-05-28

しゃべれども しゃべれども

ポイント ★★★*
DATE 07/5/26
THEATER 109KW
監督 平山秀幸
ナンバー 104
出演 国分太一/香里奈/森永悠希/松重豊
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


本当は寂しくて誰かと会話したいのに、いざ話そうとするとぎこちなくなってうまく自分を表現できない。やっと打ち解けたと思ったら、相手を傷つけてしまうようなことを口にしてしまう。成長してもそんな自分を変えられない大人たちと友達ができない子供が、必死になって変わろうとする。自分自身で壁を作ってしまい世間と折り合いをうまくつけられない人々が、その壁をどうやって乗り越えていくか。落語という古典芸能がキャラクターに奥行きを持たせ、下町の古い町並みが人情の味わいを広げる。


うだつのあがらない落語家・三つ葉は、ある日「話し方教室」の講師を頼まれる。やってきた生徒は無愛想な美女・五月と大阪弁を学校でからかわれた小学生・優、口下手な野球解説者・湯河原の3人。三つ葉は3人に「饅頭こわい」を教える。


成功体験こそ人間を成長させる。何かを成し遂げることで自信がつき、堂々とした態度が身につく。大勢の前で話をしなければならない落語はその試練にもってこいのもの。自分に注目する目が期待しているようにも意地悪にも見える、それを身をもって知っている三つ葉もまた、自分になかなか芽が出ない理由を彼らの姿を通して学んでいくのだ。行き詰ったとき、自分を変えるきっかけと同じ目的の仲間がいれば何とか乗り越えられることを、カメラは温かい視線でじっと見つめる。


結局、三つ葉は師匠の十八番の演目を自分流にこなすことで、優は「饅頭こわい」でいじめっ子を笑わせることで、湯河原は優に野球を教えることで、人生のプレッシャーから自分を解放する。そして五月は三つ葉の演目をそっくりコピーすることで、人を愛するという気持ちからためらいをなくす。この五月からの強烈な愛の告白を三つ葉は受け止め、やっと五月の顔に微笑が戻る。愛といった深いものでなくてもいい。他人を思いやり他人に思いやられる。この人間関係の基本こそがあらゆる心の病気の特効薬であることをこの映画は教えてくれる。


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