こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

インビジブル・ウェーブ

otello2007-05-29

インビジブル・ウェーブ


ポイント ★★
DATE 07/2/8
THEATER シネマート
監督 ペンエーグ・ラッタナルアーン
ナンバー 26
出演 浅野忠信/カン・ヘジョン/エリック・ツァン/光石研
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


ブルーを強調した深く沈んだトーンの映像は、まるで深海を浮遊しているよう。それはまさに自分の周りで何が起きているのかわからない主人公の心理状態の象徴で、自分から行動しないといつの間にか見知らぬ大きな力に飲み込まれてしまうかもしれないという恐怖を伴う。誰が信用できて、誰が命を狙っているのか。現実と妄想の狭間のような夢遊感が映画を支配しどこか別世界のような雰囲気をかもし出すが、物語の展開はぬるく、環境映像を見ているようだ。


ボスの妻を毒殺したキョウジはマカオからプーケットに逃げる。道中、不思議な女にであったり、強盗に全財産を奪われたり、なれなれしい日本人に救われたりするが、やがてキョウジは自分の命が狙われていることに気づく。


寡黙なセリフとセリフの間やフェリー内での不思議な出来事、赤ちゃん連れの女など、すべてが思わせぶり。しかし、それらの表現テクニックは薄っぺらいストーリーを隠すためのものとしか思えない。信じていたボスが実は自分を消すために殺し屋を放っていて、ちょっとしたきっかけでそれに気づいたキョウジが反撃に出るというよくある物語、そこに肉付けするだけのディテールが思い浮かないからあえてキョウジの妄想風にアレンジしたのだろう。人を殺してしまったのだからいくら表情は平静でも、心の中は乱れているはす。そんなキョウジの脳内現象だったという解釈も成り立つ。


特にプーケット行きの客船内での出来事は、キョウジ=観客を苛立たせるようなことばかり。シャワーやベッドが壊れた船室に閉じ込められたり、見知らぬ男に付きまとわれたり、バーテンダーが語る人生に自分の人生を重ねたり。あらゆる不条理がキョウジを襲い、神経を疲労させていく。それでもキョウジの感情の起伏は乏しく飄々としている。この、自分に起きていることを客観視する冷めた態度こそ、この物語自体が心地よい悪夢であることを示唆している。


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